『VIVANT』乃木憂助は堺雅人の集大成ともいえるキャラクター “エフ”が存在する意味は?

『VIVANT』乃木憂助は堺雅人の集大成

 そんな乃木憂助を見事に演じる堺雅人。本作『VIVANT』で堺が担う乃木は、彼がこれまで演じてきた代表的な役柄のハイブリッドと言っていいかもしれない。

 ひとつはエキセントリックな面を持ち、自身の目的達成のため能動的に行動するキャラクター。たとえば『VIVANT』と同じTBS日曜劇場の枠で3度にわたって放送された国民的大ヒットドラマ『半沢直樹』のタイトルロールや、裁判に勝つためなら手段を選ばない『リーガル・ハイ』(フジテレビ系)の古美門研介、昼間の温厚な顔とは打って変わり、闇夜で犯罪者に制裁を加える『ジョーカー 許されざる捜査官』(フジテレビ系)の伊達一義などがその例で、これらの役柄が“エフ”の演技へとつながっていく。

 もうひとつは大きな事態に巻き込まれ、その渦の中で悩みながらも生き抜こうとするごく普通の人物。最初に思い出すのは映画『ゴールデンスランバー』の青柳雅春だが、堺雅人の名を多くの人に知らしめたNHK大河ドラマ『新選組!』の山南敬助や『大奥〜誕生[有功・家光篇]』(TBS系)の万里小路有功、『ダマせない男』(日本テレビ系)の絹咲正などもここに分類されるだろう。また、少々バージョンは異なるが、NHK大河ドラマ『真田丸』の真田信繁も、どちらかといえば戦乱の世に巻き込まれ、図らずも立った人物である。

 現在は映像を中心に活躍する堺雅人だが、元は舞台出身。早稲田大学在学時にインプロ(即興演劇)を得意とする劇団「東京オレンジ」に参加し、その後、数多くの小劇場作品や三谷幸喜作・演出の舞台にも出演。演劇畑出身の俳優が映像に進出する際はビジュアル含め、個性の強さを求められることも多い中、一見“普通”にも見える堺の佇まいは稀有である。この“普通さ”=自身の個性が立ちすぎていない点が俳優・堺雅人最大の強みかもしれない。透明であるからこそ、駅で立ち食い蕎麦をすするサラリーマンから徳川幕府の将軍まで、自在に、そして誰よりも自然に演じきることができるのだ。

 さて、第3話で舞台をバルカから東京に移した『VIVANT』であるが、今後どのくらいの裏切りが起きるのだろう。乃木とともにバルカから脱出した薫も現時点では信用しきれない。医療関係者であれば外国への渡航は疑われにくいし、ジャミーン(Nandin-Erdene Khongorzul)を救うためとはいえ、彼女は完ぺきな嘘でアディエル(Tsaschikher Khatanzorig.)との仲を偽った。また、公安警察である野崎の連絡先に固執するのも怪しい。

 いや、でもキング・オブ・カメレオン俳優の堺雅人がふたつの人格を持つ人物を演じていることにはきっと大きな意味があるはずだ。ラストに大ドンデン返しが起き、すべての黒幕が乃木だったら……?

 “エフ”が存在する意味と乃木の過去に注目しながら、この壮大なドラマに気持ちよく騙されたい。舞台はまたバルカに戻るはずである。

■放送情報
日曜劇場『VIVANT』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:堺雅人、阿部寛、二階堂ふみ、竜星涼、迫田孝也、飯沼愛、山中崇、河内大和、馬場徹、Barslkhagva Batbold、Tsaschikher Khatanzorig、Nandin-Erdene Khongorzul、渡辺邦斗、古屋呂敏、内野謙太、富栄ドラム、林原めぐみ(声の出演)、二宮和也、櫻井海音、Martin Starr、Erkhembayar Ganbold、真凛、水谷果穂、井上順、林遣都、高梨臨、林泰文、吉原光夫、内村遥、井上肇、市川猿弥、市川笑三郎、平山祐介、珠城りょう、西山潤、檀れい、濱田岳、坂東彌十郎、橋本さとし、小日向文世、キムラ緑子、松坂桃李、役所広司
プロデューサー:飯田和孝、大形美佑葵、橋爪佳織
原作・演出:福澤克雄
演出:宮崎陽平、加藤亜季子
脚本:八津弘幸、李正美、宮本勇人、山本奈奈
音楽:千住明
製作著作:TBS
©︎TBS

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