『らんまん』悲劇がこれだけ短期間に起きるとは 善人VS悪人にしない脚本の容赦のなさ

 単純な悪人はいないし、たとえ、善人であっても容易に他人を助けることはできない。それは、分家のみならず、博物館の人たちもそうだし、研究室の藤丸(前原瑞樹)や波多野(前原滉)、大窪(今野浩喜)などもそう。何年もいっしょにいても、学内や論文のルールみたいなものは助言しない。うっかりしていた、ということもあるだろうけれど。やはり、ひとり、ひとりが、自分の世界を大事にしていて、他人の生き方を褒めることはあっても、そこに口を挟むことはしない、いや、できないのではないだろうか。成功も失敗も、本人の思うままにやったあとについてくるものなのだろう。留学してしまった徳永(田中哲司)が「論文はこう書け」ではなく、「田邊教授への感謝を」とだけ言っていたのもそういうことなのかな、などと思った。いや、単に、作劇上のことかもしれないが。

 こうなってくると、誰を軸にしていいのか迷う。誰にもいいところもあるし、困ったところもあるし、立場によっても態度は変わる。そういう意味では、万太郎は、立場関係なく、とにかく植物ひとすじ。それが理想ではないか。と、さえ思わせてくれないのが『らんまん』の辛口なところだ。万太郎の自由な言動によって、知らず知らずに田邊を傷つけている。つまり、絶対に間違いのないことが『らんまん』の世界にはない。

 その時々で、自分は何を選択するのか、それしかない。ただし、周囲の人たちに感謝を忘れないこと。自分がいま、選択できていることは、ひとりのちからではないこと。自分がうまくいったとき、誰かがその影で悲しい思いをしているかもしれないと想像すること。それくらいしかできないけれど、それだけは忘れないでいたいと『らんまん』を観て思う。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】 
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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