『カールじいさんの空飛ぶ家』魅力的な4人のキャラクターを解説 切なく胸に迫る冒頭10分

パルムドッグを受賞したダグ

 冒険家チャールズ・マンツが率いる犬軍団の落ちこぼれであるダグは、犬語翻訳機能付きの首輪をつけた、しゃべる犬だ。犬軍団のなかでラブラドール・レトリバーの彼だけがデフォルメされて描かれており、その愛らしさが強調されている。ダグと犬軍団は、その愛らしさと故障した犬語翻訳機のコミカルな様子が評価され、アニメーション作品として初めてカンヌ国際映画祭でパルムドッグを受賞した。

 ダグを主人公とした短編『ダグの特別な一日』(2009年)では、彼がカールじいさんとラッセルに出会うまでと、本編でなぜすぐに彼らに懐いたのかが描かれている。犬らしく飼い主に忠実なダグは、基本的にドジでコミカルな役回りではあるが、カールじいさんとラッセルのために行動し、彼らの冒険を助けていく。そして彼らと新しい関係を築き、自分の居場所を得るのだ。

 ダグは彼を主人公とした短編シリーズ『ダグの日常』(2021年)も製作されており、その人気の高さがうかがえる。

カールじいさんの最愛の妻エリー

 カールじいさんの亡き妻エリーは、彼にとって最も大きな存在で、人生のすべてだった。彼が冒険に出るのも彼女との約束を果たすためで、その後のことは考えていなかったのではないだろうか。

 活発な少女だったエリーは、その行動力はそのままに成長し、カールとの関係を引っ張っていたことがわかる。しかし子供ができない体だと知ってからは元気をなくしてしまい、カールが関係を支えていた。ふたりがともに過ごした日々は冒頭の10分ほどで描かれるが、たったこれだけの短い時間で、彼らが深く愛し合い、支え合って生きてきたことがわかり、切なく胸に迫る。エリーの登場時間はこの冒頭部分のみだが、彼女が亡くなった後もカールじいさんのなかでエリーは大きな存在のままであり、その思い出だけが支えだったことが全編の根底に流れつづける。

 ラッセルやダグと冒険をつづけるうちに、カールじいさんは彼女を失った悲しみを乗り越えていくが、それは過去を捨てたわけではない。そのときは無我夢中で気づかなかったが、エリー以外の他者を大切に思うようになった彼は、彼女との美しい思い出を胸にしまい、前を向いて生きていくことを決意したのだ。

 亡き最愛の妻との約束を果たすため、冒険に出かけたカールじいさんは、その道中で出会った他者との関わりによって悲しみを乗り越える。本作には、彼とは対象的に過去に囚われつづけるキャラクターも登場し、カールじいさんの他者への思いやりが新たな冒険への足がかりとなっていくことに気づかされる。人は他者との関わりなしには生きられない。そして、他者と関わりながら生きていくことこそが冒険なのだ。本作の魅力的なキャラクターたちは、想像以上の大冒険をとおして悲しみを乗り越え、成長し、新たな関係を築くことで、この大切なメッセージを伝えてくれる。

■放送情報
『カールじいさんの空飛ぶ家』
日本テレビ系にて、8月4日(金)21:00~22:54放送
※本編ノーカット
監督:ピート・ドクター
共同監督:ボブ・ピーターソン
製作:ジョナス・リヴェラ
製作総指揮:ジョン・ラセター、アンドリュー・スタントン
原案:ピート・ドクター、ボブ・ピーターソン、トム・マッカーシー
脚本:ボブ・ピーターソン、ピート・ドクター
出演:エド・アズナー、ジョーダン・ナガイ、ボブ・ピーターソン、ボブ・ピーターソン、デルロイ・リンド、ジェローム・ランフト、ジョン・ラッツェンバーガー、エリー・ドクター、ジェレミー・レアリー、クリストファー・プラマー
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