『らんまん』が繰り返し描く“すべてのことは表裏一体”であること 万太郎が放つ無垢な“毒”

 東京大学植物教室の門を叩いて間もないころは、周りから疎外され、「孤独じゃ」と漏らしていた万太郎。しかしやがて、藤丸、波多野、徳永(田中哲司)と、ひとりずつの心が少しずつ解けていき、協力しあう仲間となっていった。

 ヤマトグサの新種認定と日本初となる発表は、大窪(今野浩喜)とタッグを組んだからこそ成し得た。万太郎が見つけたムジナモが、一属一種の食虫植物、アルドロヴァンダ・ヴェシクローサだと教えたのは田邊だった。ムジナモの精細な植物画、渾身の1枚を描き上げた万太郎は、植物学教室での日々を振り返りながら、「みんなあがおったきこそ、わしはこの一枚が書けた」と感謝した。

 つまり、「学問とはひとりで成し得るものではなく、集合知の結晶である」ということを繰り返し周到に描きながら、最終的には単著として論文を発表してしまった万太郎に、その事実が跳ね返ってきたというわけだ。

 名教館の学友・佑一郎(中村蒼)から「あけすけすぎて心配」と言われ、植物学教室専属の画工・野宮(亀田佳明) からは「無邪気で無垢」と評された万太郎。それが良いほうに作用することもあれば、その逆もある。田邊の心の中にある、闇が収められた箱の鍵を、万太郎が「あけすけに」「無垢に」開けてしまったのだろう。

 かつて徳永が、膨れっ面で標本作りの雑務にあたる2年生たちに向けた言葉が印象深い。「どうやってここに来たかは問わない。だが、そこから変わっていけるかどうかだ」。さまざまな事情から他の学問に活路を見出せず、植物学教室に集まった教諭と学生たち。徳永自身も、大窪も、波多野も藤丸も、最初は「消去法」の結果、この教室に来たのだった。けれど彼らは、万太郎の真っ直ぐな、ただひたすら植物が好きだという「才」に影響されて変わった。そして、植物学の黎明期は終わり、過渡期に突入しようとする今、さらなる広い知見が必要だと痛感した徳永は、ドイツへの留学を決意した。

 そしてまた田邊にも、田邊なりの理由と思想があって植物学を志し、日本に広めようとしたのだ。そのためには、政治家や役人との関係を構築し、下げたくない頭も下げてきたことだろう。田邊の視点に立ってみれば、突然やってきて「無垢に」全てをかっさらっていく万太郎に、嫉妬と苛立ちを感じるのは無理もない。このドラマは、どちらか一方が善で、どちらか一方が悪というような描き方をしない。田邊の心の内が、今後どのように語られるのかも見ものだ。

 さて、待望の第一子・園子が生まれた万太郎と寿恵子(浜辺美波)だが、次の18週「ヒメスミレ」からは、新たに大きな苦難が降りかかるのだという。もしかしたらこれは、万太郎がこれまでに及ぼした周囲の人たちへの「波動」や「影響」が、波のように帰ってくるターンとなるかもしれない。万太郎と寿恵子が、周囲の人たちの力を借りながら苦しみに立ち向かい、どんな歩みを続けていくのか、見守っていきたい。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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