『らんまん』寿恵子を支えた十徳長屋の人々との絆 朝ドラで描かれてきた“集う場所”の魅力

 連続テレビ小説『らんまん』(NHK総合)の第16週となる「コオロギラン」が放送された。万太郎(神木隆之介)が順調に図譜の制作を進める中、寿恵子(浜辺美波)はついに出産を迎える。植物採集で留守にする万太郎の代わりに寿恵子を支えたのは、十徳長屋の人々だった。

 長屋の人々と万太郎は強い信頼関係を築いてきた。人から愛される万太郎は、長屋にもあっという間に溶け込み、差配人のりん(安藤玉恵)を筆頭に倉木夫婦(大東駿介・成海璃子)やゆう(山谷花純)たちとも絆を深める。今や長屋の人々は家族のように万太郎や寿恵子を支えており、万太郎の生活を描く中でなくてはならない人たちとなった。それは長屋を訪れる万太郎の知人たちも、また同様。長屋の中庭に集まり食事を共にすることで、人々は親交を深めて本当の気持ちを吐露しあい、互いをより理解する。万太郎や、その友人たちの日常と密接に関わりあう十徳長屋の存在は、『らんまん』において重要な役割を果たしているのだ。

 第16週では、とりわけその絆が強く描かれたように感じる。寿恵子がつわりで苦しんでいる時は、長屋の中庭で藤丸(前原瑞樹)が熱々の 芋のフライを作り寿恵子に振る舞う。このシーンではいかに藤丸が心優しく親切な人間であるかが表現されており、自分の悩みそっちのけで寿恵子に寄り添う姿が印象的だった。だが辺りが暗くなり中庭で芋のフライを肴に皆が酒を飲み始めると、藤丸は大学を辞めようとしているという悩みを吐露する。かつて、ゆうが過去を明かした時と同じように、藤丸は自身のつらい心境を万太郎らに話したのだ。だがゆうは、自分が子どもをおいて出てきたことでどれほど苦しんだかを藤丸に伝え「いなくなったほうがいい理由なんて、かき集めても無駄」と発破をかけた。時にきつく聞こえるような言葉は、相手に真摯に向き合っている証なのだ。

 寿恵子が産気づいたことにいち早く気づいたのは倉木だ。すぐに女性陣が力を合わせて出産の準備に入る。万太郎が留守のときでも、長屋のみんなが寿恵子に寄り添いサポートすることでお産は順調に進む。万太郎がちょうど出産の直前に帰ってきた時には長屋の男性陣が迎え、万太郎がすぐに寿恵子の元に行けるように荷物を受け取った。全員が一丸となって、万太郎と寿恵子の第一子誕生日に向けて力を合わせる。もはや、万太郎と寿恵子だけの問題ではなく、皆が一体となって長屋での命の誕生を祈っているのだ。

 ここで気づいたのは万太郎が大きな酒蔵で生まれ、自然といろいろな人のサポートのもとに生きてきたという生い立ちだ。その天性の「愛され力」で人と人とを結び、やがては大きな「家族」を作る。峰屋の当主にこそならなかったものの、東京の地でこうして長屋の結束力を高め、全員が手を取り合える「家族」のような環境を作ったのは紛れもなく万太郎なのだろう。

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