『どうする家康』松本潤の瞳が表す“心”を失った家康の闇 有村架純&細田佳央太の名演も
信康が自害する数日前、家康は佐鳴湖のほとりで瀬名に会っていた。家康が瀬名の目の前に現れた時、刀を抜こうとしていた瀬名の手にはまだためらいがあった。けれど、瀬名に生きてほしいと願う家康に、「私たちは死なねばなりませぬ」と諭す瀬名の声色に迷いはない。
家康と向き合う瀬名の声色が、瀬名の思いに合わせて変化していたことが印象深い。築山で五徳(久保史緒里)に書状を書くよう命じた時、「何なりとご処断くださいませ」と頭を下げた時、そして「あなたが守るべきは、国でございましょう」と言い聞かせる声色は、一国の主の妻として覚悟を決めたものだった。けれど、メソメソと泣く家康に、家康の妻としてかける言葉は優しく響く。
「世の者どもは……そなたを……悪辣な妻を語り継ぐぞ」
「平気です。本当の私は……あなたの心におります」
たまらず泣き出した家康に、「相変わらず、弱虫、泣き虫、鼻水垂れの殿じゃ」と笑う瀬名の声のなんと優しいことか。「あなたなら、できます。必ず」「瀬名はずっと見守っております」と瀬名は家康を励まし続ける。目に涙を浮かべながらも、普段と変わらない微笑みで別れを告げようとする瀬名の姿が切ない。瀬名は家康との幸せな思い出を噛み締めるように穏やかな表情で最期を迎えた。
家康は愛する2人を守れなかった。
瀬名の死を目撃し、家康は泣き叫ぶ。家臣らに抱き抱えられながら、激しく顔を歪めて泣きじゃくる姿に心が痛む。瀬名との場面で見せた、弱虫、泣き虫、鼻水垂れな様も訴えてくるものがあるが、信康の死を知った時の家康の面持ちに心動かされた。映し出されたのは、うつろな目をした家康の顔だ。表情に覇気はなく、守れなかったことへの絶望が感じ取れる。2人のいない世界など意味がない、そのような考えにとらわれているようにも見えた。力なく立ち上がった後、映し出された手からも深い悲しみが表れていた。失意のあまり、家康は倒れてしまう。於愛(広瀬アリス)が心配そうに見つめる中、横たわる家康の瞳は深い闇に満ちていた。泣くこともできなくなった、そんな松本の演技に強い喪失感を覚えた。
■放送情報
『どうする家康』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:松本潤
脚本:古沢良太
制作統括:磯智明
演出統括:加藤拓
音楽:稲本響
写真提供=NHK