『らんまん』松坂慶子の演技が感じさせた“信念” タキに負けず劣らずな寿恵子の眼差しも

 『らんまん』(NHK総合)第58話で、万太郎(神木隆之介)は役人に詰め寄られる綾(佐久間由衣)を助けた。役人が去った後、万太郎が「姉ちゃん、すごいのう」と声をかけると、綾は「みんなが力をくれる。私がだらしないき」と返した。綾の弱々しい声色とやや疲弊して見える面持ちは、万太郎が来てくれなかったら、町の人々が声をあげてくれなかったら峰屋を守れなかったと自分の未熟さを痛感しているように見えた。けれど、万太郎の目には、峰屋の当主を務めてきた綾のこれまでの頑張りがしっかりと伝わっている。

「いいや、姉ちゃんは闘いゆうき」
「酒のためにまっすぐ闘いゆう」

 「政府のあらためより宴会が大事じゃと?」と詰め寄る役人から目を背けず、「そのとおりでございます! 峰屋が誇る、峰乃月。その味は蔵人らあを宝としてきたきこそ!」と訴えた綾。町の人々が「無実の峰屋! 峰屋は無実じゃ!」と声を合わせたのも、町の人々の目に酒造りにひたむきな綾の姿が届いていたからこそだろう。

 そんな綾だが、万太郎と竹雄(志尊淳)の帰郷、そして寿恵子(浜辺美波)の来訪を笑顔で受け入れるもどことなく元気がない。綾が酒屋の厳しい現状以上に気にかけていたのはタキ(松坂慶子)の体調だった。「ど……どういて知らせてくれんかった?」と問う万太郎に、綾はタキ本人の願いで知らせなかったと打ち明ける。

 動揺する万太郎は寿恵子を連れて、タキのもとを訪れた。万太郎は体調の思わしくないタキの状態を覚悟して戸を開ける。するとタキは、百人一首のふだを広げて、凛とした佇まいで万太郎と寿恵子を待ち構えていた。

 タキは万太郎と寿恵子の結婚を「まだ認めちゃあせんき」と言うと、寿恵子に百人一首の勝負を挑む。この場面のタキは病床にある身とは思えぬほど堂々とした貫禄があった。万太郎にとって見慣れた祖母の姿だ。けれど、第57話を観た視聴者はタキの弱々しい姿を見ているからこそ、この姿が気を張った姿であることを知っている。タキを演じている松坂の、これまでのタキの気概からはやや弱々しく、けれど毅然として見える演技に心動かされた視聴者は少なくないはずだ。

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