『ラストマン』永瀬廉が示した希望 刑事ドラマで個人と組織の関係に一石投じる

 警察組織の腐敗という刑事ドラマの王道テーマがこのタイミングで浮上した。上層部は池上の死を事件性がないとして隠ぺいする。背後には護道家の清二(寺尾聰)と弓塚の関与がほのめかされた。心太朗は「事件はこれでおしまい」と言うが、正義感に燃える泉は京吾(上川隆也)に抗議する。泉は本作の希望そのものである。警察一家で育った泉は組織の矛盾を敏感に受け止める一方、理想を貫く熱意も持ち合わせている。まさにこれからの人だが、その泉が刺されてしまった。

 現代的なトピックを扱い、多様性を織り込んだ『ラストマン』が往年の刑事ドラマを意識していることはすでに指摘されているが、若手が倒れるという定番シーンも踏襲されていた。多くの作品で繰り返され手垢まみれになった描写を、本作では時代に即した個人と組織の葛藤という文脈から捉え直すことで、アナクロニズムに陥らない新鮮さを感じさせた。

 真相を知って黙っていることが正義にかなうこともあるかもしれないし、かつてそれが正しいとされた時代もあったのだろう。41年前の真実を知る人間は山藤、弓塚、清二、池上、鎌田本人を含めて何人もいた。彼らは保身から、また誰かのために口をつぐんできた。しかし確実に時代は変わっている。皆実や心太朗、泉たちがやろうとしていることは単なるルサンチマンの発露ではない。もっとパーソナルで普遍的な個人の生き方の問題であり、結果的にそれが組織との関係性を変えるという視点が重要である。

■放送情報
日曜劇場『ラストマン-全盲の捜査官-』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:福山雅治、大泉洋、永瀬廉(King & Prince)、今田美桜、松尾諭、今井朋彦、奥智哉、王林、寺尾聰、吉田羊、上川隆也
脚本:黒岩勉
演出:土井裕泰、平野俊一、石井康晴、伊東祥宏
撮影監督:山本英夫
プロデュース:益田千愛、元井桃
編成プロデュース:東仲恵吾
音楽:木村秀彬、mouse on the keys
全盲所作指導:ダイアログ・イン・ザ・ダーク
協力:日本視覚障害者団体連合
製作:TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/lastman_2023_tbs/
公式Twitter:@LASTMAN_tbs
公式Instagram:LASTMAN_tbs

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