『らんまん』は閉じ込められた人々を解放する物語 神木隆之介の“少年性”が説得力を生む

『らんまん』が描く閉じ込められた人々の解放

 サブタイトルの「ユウガオ」も見事に物語に機能している。徳永は朝顔、昼顔、夕顔と似た感じの花のなかで夕顔が好きだった。この花は実は、同じ「〜〜顔」という名前がついてはいるが、朝顔と昼顔とは違う種類の植物だった。種類が違い、太陽がのぼる昼間ではなく、夕暮れにひっそり咲く花を愛でる徳永の性格を思う。また、クサ長屋に現れた寿恵子を子どもたちが「ユウガオのお姫様だ」と呼ぶ。寿恵子は、高藤から妾の娘、菓子屋の娘から、地位と名誉のある元老院の養女になって、自分のパートナーになるように勧められたが、今の自分として堂々と生きることを選んだ。夕顔だって種類は違っても、美しく、愛される。そして、昼顔と夕顔が一瞬、一緒に咲く時間ーー昼と夕の間の時間だって存在するのである。それは寿恵子が言う「分かり合う」ことなのだ。

 解き放たれた徳永や寿恵子の笑顔がまぶしい。万太郎は、自分の道を決して諦めないけれど、他者の道も損なわない。大畑印刷向上の、岩下(河井克夫)の石版印刷の仕事を習って、仕事を奪ってしまうのではと思いきや、学会誌の2号からは、岩下に仕事を頼むといいと言う。結果的に岩下の仕事を作ったことになる。

(手前)槙野万太郎役・神木隆之介、(奥左から)宮本晋平役・山根和馬、波多野泰久役・前原滉、藤丸次郎役・前原瑞樹、前田孝二郎役・阿部亮平、岩下定春役・河井克夫、大畑義平役・奥田瑛二

 万太郎は、江戸時代の日本文化も、未知なる西洋文化も、いいものはいいと、本質で判断している。

 万太郎のような役が神木隆之介で良かったと感じるのは、彼のもつ少年性である。子役からデビューして、その演技のうまさで多くの重要な少年役を演じてきた。少年とは神木隆之介のことを言うといえるくらい象徴的な存在であったので、いまだに彼に少年性を見てしまう視聴者は多いだろう。

 当人は偏った見方をされたくないかもしれないが、それこそ、それぞれの個性なのだから、大人になっても少年性が発揮できる稀有さはそのままでいいように思う。何をもって少年性というのかといえば、若芽のようなフレッシュさと未知の可能性の大きさ、純粋さである。そういう資質が万太郎が多少強引でも、未来あるこの人物に託したいという気持ちになるのである。たとえ、印刷工場の人たちとあまりに容易に馴染み過ぎるように思えても、職人たちが、未来ある少年に技術を教えているようにも見えて微笑ましく感じるのだ。

 ただし、これが本当の子供では、ここまでのものにならない。大人の分別と教養を持ちながら、純粋であることが大事なのである。だから30歳になった神木が演じる万太郎だからいい。神木が演じる万太郎は、誰の心にもある瑞々しさなのである。大人も子供も、歴史も未来も、西洋も日本も、すべてが行き来する交差点のような万太郎に、誰かの勝手なルールに押し込められていた者たちが解放されて、晴れやかな笑顔になっていく。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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