『らんまん』奥田瑛二&鶴田真由が江戸の人情を体現 寿恵子を迎えに行く手はずが整う
人情ものの十徳長屋、青春群像劇の植物学教室に対して、印刷所で過ごした時間は学びと鍛錬の修業時代に位置づけられる。第54話では、江戸の風情を受け継ぐ大畑一家の立ち回りに思わず膝を打った。一人娘の佳代(田村芽実)はいつの間にか万太郎を見初めていたようで、万太郎が自分を迎えに来ると勘違いして浮かれる。万太郎が大畑夫妻に頼んだのは釣書(系図)を届けること。寿恵子との婚姻の仲人になってほしい意図である。
「えれえこっちゃ、えれえこっちゃ!」
神棚の飾られる土間を息せききって上がる大畑。座敷を横切って後から来たイチに着物の支度を命じる。大畑がせっかちな性格であることはすでに明かされているが、夢見心地でおっとり茶を飲む佳代との対比がおかしい。娘の誤解に大畑が呆然とするそばから「せっかちに良いことなんて一つもないんだからね」とたしなめるイチ自身が、万太郎の相手が和菓子屋の娘だと口走ってしまう。
日本家屋の間取りを舞台に見立てて、履物を脱いで着物を羽織るまでの上下の動作と横軸の視点の移動が、婚礼というイベントに絡めた家族の感情の振幅と相まって、劇的な効果を生んでいた。テンポの良いやり取りと視覚の楽しさが、最後の「仏滅」で一気に弾けるのも最高だった。脚本、演出、役者の演技が一体となったドラマの醍醐味が凝縮されていた。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK