『合理的にあり得ない』が生む心地良さ 万能コメディエンヌ白石聖が物語をかき回す

 第9話で難しかったのは親権をめぐるトラブルだ。なぜ5年前に別れた子どもを今になって取り返しに来たのか。経済的に困っていないのに父親に親権を譲った理由など、気がかりなことはいくつもあって、白昼堂々、涼子と貴山のラブホデート、じゃなくて調査では、壁に耳を当てる例のやつで決定的な証拠をつかむと香奈江の目の前で突き付けた。重い決着だったと思う反面、親子は一筋縄ではいかないと思わせるエピソードだった。

 特筆すべきはコスプレが貧相だったことである。お母さん、プロサッカーチームのスカウト(男女)など、第9話は勢いで押し切る扮装が多かった。番組制作の都合上、ここだけ低予算というのは考えにくいので、きっと理由があるに違いない。これは仮説だが、涼子は香奈江から報酬をもらうのは難しいと考えて、手の込んだ扮装はやめたのではないか。飽きたからでもドケチなのでもなく、零細の上水流エージェンシーが、ふだんから身を削って人助けしていることがこんなところから伝わってくる。

 さて、涼子がなぜわざわざ探偵の仕事を選んだのかという疑問への答えは「まだ諦めてない」からだった。涼子が椎名(野間口徹)を殴ってしまったのも、何者かにコントロールされていたから。それを仕組んだ人間がいて、涼子に過去の出来事を伝える人間もいる。同じタイミングで、貴山の前にかつての彼を知る氷川(阿部亮平)が現れ……。物語が核心に迫るにつれ、これまでのゆるい雰囲気が恋しくなるのはなぜなのか。気づかないうちに私たちも作品の空気になじんでいた。きっと久実も同じだろう。来るものを拒まない上水流エージェンシーは、一度その心地良さに触れると、いつまでもいたくなる空間なのだ。

■放送情報
『合理的にあり得ない~探偵・上水流涼子の解明~』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00〜放送
出演:天海祐希、松下洸平、白石聖、中川大輔、丸山智己、仲村トオルほか
原作:柚月裕子『合理的にあり得ない 上水流涼子の解明』(講談社文庫)
脚本:根本ノンジ
演出:光野道夫、二宮崇、倉木義典
プロデューサー:萩原崇、清家優輝
音楽:眞鍋昭大
制作協力:ファインエンターテインメント
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト: https://www.ktv.jp/arienai/
公式Twitter:https://twitter.com/arienai_g
公式Instagram:https://www.instagram.com/arienai_g/

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