眞栄田郷敦が『どうする家康』に刻んだ敗者の眼差し 奇妙な魅力が増し続けるムロツヨシも
物語序盤、信長と秀吉は見え透いた芝居で家康を追い込み、鳶ヶ巣山砦を攻め落とす夜襲の役目を徳川勢に引き受けさせる。その際、碁を打つ信長が秀吉に「加減をするな、猿」と忠告する声色や家康が策を述べる中で見せた秀吉への目配せは何とも楽しそうだった。
勝利後も、信長と秀吉は再び碁を打っている。信長は恐らく、秀吉が自分に近い力を身につけ始めていること、野心を抱いていることをすでに見抜いている。信長は長年の家臣・佐久間信盛(立川談春)に「ついてこれん者は置いてゆくぞ」と釘を刺した。「お主は分かっておろう?」と信長は秀吉に問う。秀吉は束の間真剣な面持ちを見せるが、ヘラヘラと笑ってみせ、「あ〜、猿の脳みそでは到底分からんことで」と白を切る。秀吉もまた、信長が自分の野心を見抜いていることを知っているのだろう。分かっていて道化を続け、さらにすでについてこれていない信盛を遠ざけているように思える。
信長の機嫌を損ねず、けれど過剰に媚びへつらうでもない、絶妙な匙加減で信長の横につく秀吉。もとより得体の知れない人物像ではあったが、回を追うごとにその奇妙な魅力が増している。
■放送情報
『どうする家康』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:松本潤
脚本:古沢良太
制作統括:磯智明
演出統括:加藤拓
音楽:稲本響
写真提供=NHK