『シークレット・ファミリー』“黄金ケミ”チャン・ヒョク×チャン・ナラはやはり最高だった
チャン・ヒョク×チャン・ナラの9年ぶりの共演が話題となった、ディズニープラス「スター」で配信中の『シークレット・ファミリー』。チャン・ヒョクが演じたのは、家では妻の尻に敷かれる夫、裏ではスパイという役柄。チャン・ナラと夫婦を演じるだけに、否が応でも期待値が高まる注目作としてスタートした。前半と後半とでは、全く違うドラマを観ているようなコメディとサスペンスアクションが楽しめるドラマとなっている。
本作は、愛妻家で、家では妻の尻に敷かれる夫でありながら、実は国家情報院のブラック要員クォン・ドフン(チャン・ヒョク)が、凄腕スパイとして活躍する姿から物語は始まる。ドフンが愛する最愛の妻であるカン・ユラ(チャン・ナラ)は、カフェを経営しながら、夫と娘を支える良き妻だ。ドフンの父や、弟夫婦もユラに頼りっぱなしで、家族はユラを中心に回っている。
物語は、全12話という韓国ドラマの通常16話~20話の構成の中では、短めのものとなっている。最近の韓国ドラマは短めのものも増えているが、丁寧な人物描写や、情景描写を得意とし、しっかりと人間を描くことを得意とする韓国ドラマにおいては、長いものに比べると、どうしても物足りなさを感じてしまうのは否めないところだ。短い話数の中で、起承転結をバランスよく配置し、見応えのあるものを制作しようとすると、“なにか”を削らなくてはいけなくなってしまう。本作で削られてしまったのは、“言葉”だったのかもしれない。物語は、序盤と中盤、後半で違うドラマを観ているような感覚に陥るのだが、コメディ部分でドフンやユラのモノローグ(心の声)や、背景が描写されていれば、後半へ続く中で、観る側にも夫婦がいかに家族との日常を幸せに感じていて、守りたいと思っているかを理解することができたのかもしれないと、そのあたりを惜しく感じるのだ。ドフンやユラが一体何を考えていて、背景はどうなっているのかが語られないまま、コメディから一転、シリアス展開へと話が転がりだし、さらに重いストーリーへと続いていく。
ホームドラマタッチの家族のドタバタを“おもしろおかしく”見せていた序盤に対して、第4話ラストでユラが秘密組織の一員であったことが分かり始めたあたりから、物語は色を変えていく。おしどり夫婦で、2人目の子供を作ろうとしていた仲良し夫婦に訪れた、青天の霹靂というべき影。一家の太陽であったユラが、実は国によって傭兵として育てられていたという過去。その過去をドフンとユラは、思いもよらない形で互いに知ることになってしまう。さらに明かされていくユラのあまりにも壮絶な過去。序盤に見せていたユラの明るい眼差しが、過去に引き戻され暗さを纏い始めるのが辛い。
本作でも、チャン・ヒョクとチャン・ナラが見せる黄金ケミは健在で、ドタバタコメディのときは、“暑苦しい父親”と“愛情深い母親”像が描かれる。一転、スナイパーとして互いに対峙した瞬間、驚愕した夫婦の表情。ユラは、震える手でドフンが国家情報院の要員であったことを知ることになる。一方のドフンは、ユラの身の上を知っても、彼女には何も問いただすことをしないのだ。ドフンのユラへの愛情の深さや懐の大きさが、ふたりの出会いから愛を育む過程でよくわかる。
「宇宙一最高の美女」とスマホにユラを登録するドフンのユラへの愛情は、ユラと知り合ったタイの過去編で見せてくれる。タイ編では、2人が共演した大人気ドラマ『運命のように君を愛してる』のファンへのご褒美のような姿を見せてくれている。このタイでのシーンが観られただけでも、チャン・ヒョクとチャン・ナラの共演に視聴者が期待するものを魅せてくれたと言えるのではないだろうか。タイ編の2人は、『運命のように君を愛してる』でチャン・ヒョクが演じたゴンと、チャン・ナラが演じたミヨンがそのままタイで旅をしているよう。ユラのメガネが、まさにミヨンの“それ”であったり、ふたりがいちゃいちゃする空気感が、『運命のように君を愛してる』そのままでテンションが上がる。ミヨンのようなユラが、ゴンのようなドフンの前で笑顔を見せるさま、最初は“ツン”のドフンが“デレ”になるまでも、ゴンが“ツン”から“デレ”になるまでを思い出させ、甘酸っぱい初恋を思い出すような気持ちにさせられる。今のドフンとユラが、ふたりで築いた愛と家族をいかに大切に思っているかがわかるのだ。