大東駿介、俳優として作品の支柱的な存在に リアクションが『らんまん』にもたらすもの

 期待に胸をふくらませて新生活を始めたものの、なかなかうまくはいかないものだ。

 放送中の朝ドラ『らんまん』(NHK総合)では、神木隆之介が演じる主人公・槙野万太郎もそのような状態に陥った。新しい環境では、すべてがそれまでとは違う。自ら適応していかなければ、やがては居場所を失うことにもなる。いつの時代も“最先端”が集う東京での生活は一筋縄ではいかない。頼るべき“先輩”を見つけるのが吉。ここで期待できるのが、大東駿介が演じる倉木隼人の存在である。

 万太郎にとって倉木といえば、土佐から東京へと持ってきた大切な植物標本の入ったトランクを盗んだ許しがたい相手であり、そのいっぽうで、クサ長屋(十徳長屋)に住むきっかけを作った人物でもある。彼は元彰義隊の隊士であり、戊辰戦争の戦闘の一つである上野戦争の生き残り。妻子とともに暮らし、自身は酒と賭け事ばかりの自堕落な生活を送ってきた。これを表現する大東は、つねにどんよりとした重い空気を身にまとい、表情も暗く沈んでいる。

 本作の公式ガイド『連続テレビ小説 らんまん Part1』(NHK出版)にて大東は「元彰義隊の倉木は、侍崩れで時代に置いていかれた男。『背中の傷は武士の恥』と、その痛みを意識し、割り切れない気持ちを背負いながらも生きようと葛藤する姿をしっかり演じたいと思います」と、自身の演じる役について語っている。万太郎とのファーストコンタクトは最悪なものだったけれど、彼がただの悪人や本物のクズでないことはすぐに分かった。妻・えい(成海璃子)とのかけ合いや、二人の子どもが熱を出した際に取るべき行動を速やかに取った万太郎に対するリアクションからもそれは明らかだった。

 しかしそれ以前に、「現在の倉木という人物は真の姿ではない」と感じたのは筆者だけだろうか。もちろん、番組の公式サイトを開けばそう書いてある。だがそれはただの情報でしかない。演技によって視聴者に伝えられるかどうかは、俳優個人の力量にかかっている。実際のところ、大東の表現は絶妙なものだった。極端な(大げさな)演技によって自堕落ぶりを誇張することなく、あくまでも「影がある」といった程度に収めていた。この「影」とは、いまの倉木の暗い性格が形成されるに至った過去である。彼はただ他人を貶めることを目的にしているような悪人ではない。ひどく傷つき、生き辛さを抱えた人物だ。そのような印象を、ごく限られたシチュエーションの中で示していたのである。

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