『ピーター・パン&ウェンディ』の達成と功績 原作小説&アニメーション映画と比較考察

 続々と進められている、ディズニーの名作アニメーションの実写化企画。この度ディズニープラスで新しく配信されたのが、ディズニー・クラシック・アニメーションの中でも人気の高い『ピーター・パン』(1953年)を題材にした、『ピーター・パン&ウェンディ』だ。

 今回の映画のタイトルは、基になったアニメーション映画『ピーター・パン』の原作にあたる、戯曲を基にしたジェームス・マシュー・バリーの小説の名前により近いものとなっている。ということは、本作『ピーター・パン&ウェンディ』は、アニメーション映画を参考にしながらも、さらにその原点に回帰する意志を示しているといえよう。

 果たして、この試みは狙い通り功を奏したのだろうか。ここでは、そんな試みを通して、本作が何を真に表現したかったのか、そしてその出来栄えを、原作小説、アニメーション映画と比較しながら、できるだけ深く考えてみたい。

 まず印象に残るのは、本作が全体的に暗いトーンで描かれているということだ。物語も映像の雰囲気も、アニメ映画版と比べると、全体的に薄暗く陰りを帯びているように感じられる。それは、本作の監督を務めているのがデヴィッド・ロウリーであるということが大きい。

 ロウリー監督は、同じくディズニーのリメイク作である『ピートと秘密の友達』(2016年)を手がけたほか、『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』(2018年)や『グリーン・ナイト』(2021年)など、落ち着いた雰囲気を持った、アーティスティックなダークファンタジーを得意としている。よって、本作が陰鬱さを持った内容になるのは、監督の過去作を知っている観客ならば予想ができたところだ。

 とはいっても、本作がアニメーション映画版を基にしている以上、楽しい冒険活劇が描かれるのは確かではある。子どもから大人へと成長する、ちょうど間の時期に差し掛かっていたウェンディ(エヴァー・アンダーソン)は、母親から聞かされていた、おとぎ話の主人公ピーター・パン(アレクサンダー・モロニー)本人に出会う。ピーターはウェンディやその弟たちを、夢の国「ネバーランド」へと誘うのだった。

 ピーターといつも一緒の小さな妖精ティンカー・ベル(ヤラ・シャヒディ)が、ウェンディらに“妖精の粉”を振りかけ、子どもたちが楽しいことを頭の中で思い浮かべると、その体は宙に浮き、空の彼方にある「ネバーランド」まで飛翔できるようになる。夜のロンドンからネバーランドまでの道筋は、アニメ映画版と同様、躍動的な見せ場となっている。

 俳優たちは基本的にはスタジオで演技したと見られるが、夢の国ネバーランドの風景は、自然のままの風景が残るカナダの秘境、ニューファンドランド島で撮影されたものだという。確かに航空図を見ると、ロンドンからだいたい西の方角へ一直線に海上を飛行していけば、氷山に削られ切り立ったニューファンドランド島の海岸のあたりに辿り着くはずである。そしてこの島は、英国出身のジョン・フィリップスが、海賊として名を馳せた地でもある。もしネバーランドが“右から2番目の星”でなく、地球上に存在したらと思えば、納得がいくロケーションだ。

 一方で、霧深く気温も低い気候でもあるため、観客が想像しているネバーランドよりも、荒涼として寒々しい印象を与えられるのも確かだろう。それは、本作のうす暗いイメージの醸成にも影響していると考えられる。そして前述したように、物語もまた、重苦しく陰鬱な要素を内包しているのである。

関連記事