『おんな城主 直虎』を観れば『どうする家康』がもっと楽しくなる 井伊直政登場に寄せて

 NHK大河ドラマ『どうする家康』第15回終盤に、板垣李光人演じる井伊虎松が登場した。まるで花のような艶やかな美しさと優美な舞で家康(松本潤)たちを魅了したかと思えば、一瞬にして変化する。毬が転がるように、もしくは鋭い刃そのもののように、全身に家康への憎しみを宿して『どうする家康』の世界の中に転がり込んできたその少年。『青天を衝け』(NHK総合)、『シジュウカラ』(テレビ東京系)の板垣李光人にしか演じられない井伊虎松が登場した瞬間だった。

 井伊虎松、後の万千代、直政と言えば、思い出さずにはいられないのは、6年前に『おんな城主 直虎』(NHK総合)で菅田将暉が演じた井伊直政(虎松/万千代)であり、彼を大切に育てた柴咲コウ演じる「女城主直虎」の姿である。『どうする家康』第16回において、「お前のせいで俺の家はめちゃくちゃになった!」と家康に食ってかかる虎松の「家がめちゃくちゃになった」とはどういうことなのか。その背景を知るのに、虎松の後見として井伊の領主となった直虎を主人公とした大河ドラマ『おんな城主 直虎』ほど相応しいものはないだろう。

 まず、同じ人物を演じていても、俳優、キャラクター共に全く個性が異なり、作品自体の解釈も描き方もそれぞれに異なることが前提であり、並列して語ること自体ナンセンスなのかもしれない。だが、『おんな城主 直虎』を観直したらこんな発見がある、まだ観たことがない人には、『どうする家康』を観る上で、こんなに素晴らしい副教材があるのだという1つの提案として、本稿を捉えていただきたい。

 『おんな城主 直虎』は、2023年秋にシーズン2の放送が予定されている『大奥』(NHK総合)に加え、2025年放送予定の横浜流星主演大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺』(NHK総合)の脚本を担当することが発表された森下佳子が手掛けた2017年の大河ドラマである。駿河の今川、甲斐の武田、三河の徳川という大国の思惑に翻弄される、遠江・井伊谷という小さな土地を舞台に、そこに住む人々を守るため、彼らの生活を潤すために力を尽くした女性の生涯を描いた作品だ。

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 改めて見返してみると、『どうする家康』とリンクする部分が多く、非常に面白い。例えば、常に今川家に脅かされ、何度も存亡の危機に立たされ、その都度徳川家に救いを求めるも裏切られるという、小国ならではの苦悩が描かれていること。さらには「おんな戦国大名」の先達のような存在である寿桂尼(浅丘ルリ子)と直虎の関係、直虎と家康(阿部サダヲ)の正室・瀬名(菜々緒)の友情といった、同時代を生きた女性たちの「あったかもしれない」繋がりを軸に、今川家、徳川家で巻き起こるドラマの数々も余すところなく描かれていること。『どうする家康』においても描かれた、今川氏真(尾上松也)の葛藤を描いたエピソードや、気が強く美しい瀬名と「ぼんやり殿」家康との出会いの場面から人質交換のエピソード、その後の展開に至るまで、重なる部分がとにかく多い。

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