藤子・F・不二雄の奥深い魅力を凝縮 『おれ、夕子』『メフィスト惨歌』の見事な実写化
「すこし」とは「すこし孤独」「すこしさびしい」「すこし恋しい」「すこし残酷」などの感覚だ。完全な孤独、とりかえしのつかないさびしさ、狂おしいほどの恋愛、絶望的なまでの残酷さとはやや異なる。一方の「ふしぎ」は、非日常なシチュエーションの中で立ちのぼる「人の心のふしぎ」を表しているように思える。この「すこし」と「ふしぎ」が柔らかな絵のタッチと相まって、異様なシチュエーションの物語の中にも、どこか温もりや優しさを感じさせるのだ。
藤子・F・不二雄はかつて「『こういう人間がいるかもしれない』と、体温を感じさせるような人物を創っていきたい」と語っていた(『藤子・F・不二雄の発想術』小学館新書)。『おれ、夕子』の夕子の父は、他人の体を使って亡き娘を蘇らせようとしたマッドサイエンティストだが、娘を抱きしめる彼の姿には人の親が持つ温もりがある。異常な境遇に置かれた夕子と弘和、夕子の父の話を盗み聞きしながら涙する勉吉にも、それぞれ温もりが感じられる。『メフィスト惨歌』の人間にしてやられるメフィストからは、仕事ができない中年男のペーソスが漂っている。
予想もつかない展開と突き放されるような物語の中に、どこか温もりがある。絶望的なラストのはずなのに、どこか優しさやユーモアがある。それが藤子・F・不二雄のSF短編の奥深い魅力ではないだろうか。それがこのドラマ化で十分表現されると思う。先の2作品を観て、そう確信した。
参照
https://www.nhk.jp/p/fujiko-sf/ts/N93R8JJ329/blog/bl/p61gnglmlG/
■放送情報
『藤子・F・不二雄 SF短編ドラマ』
NHK BSプレミアム・BS4Kにて放送(15分×12回予定)
『おれ、夕子』
4月9日(日)22:50〜
脚本・演出:山戸結希
出演:鈴木福、田牧そら、柴崎楓雅、藤井夏恋、池村碧彩、山本耕史
『メフィスト惨歌』
4月9日(日)23:05〜
脚本・演出:宇野丈良
出演:又吉直樹、鈴木杏、武内駿輔、渡辺哲、大方斐紗子、大和田伸也、遠藤憲一
『定年退食』
4月16日(日)22:50〜
脚本・演出:宇野丈良
出演:加藤茶、井上順、山崎潤、原扶貴子、池田鉄洋、中山翔貴、白鳥紗良、神谷圭介、吉田正幸、小出圭祐、上原りさ、山崎あみ、三ツ矢雄二、ベンガル
『テレパ椎』
4月16日(日)23:05〜
脚本:本多アシタ
演出:倉本美津留
出演:水上恒司、坂口涼太郎、北香那、岡崎体育、富田望生、やついいちろう
『昨日のおれは今日の敵』
4月23日(日)22:50〜
脚本・演出:家次勲
出演:塚地武雅、高橋努、アベラヒデノブ、宮下かな子、本多力
『親子とりかえばや』
4月23日(日)23:05〜
脚本・演出:松本壮史
出演:青木柚、吹越満、横田真悠、望月歩、宮田早苗、霧島れいか
『流血鬼 前後編』
4月30日(日)22:50〜
脚本・演出:有働佳史
出演:金子大地、堀田真由、加藤清史郎、福山翔大、宮崎吐夢、片岡礼子、宮川一朗太
※6月の同じ時間帯に『箱舟はいっぱい』『どことなくなんとなく』『イヤなイヤなイヤな奴(前後編)』を放送予定。
制作統括:古屋吉雄(NHK)、 川崎直子(NHKエンタープライズ) 上田勝巳(ライツ)
写真提供=NHK