『らんまん』は“ままならなさ”を描く朝ドラに? 万太郎の成長を“3段階”で見せた意図

 「自然の力は人よりも大きい。人はそれを封じ込むことはできん」と川を見ながら蘭光が語ると、佑一郎は真摯に「共に生きるのはどうしたらええがでしょう」と問う。蘭光はうーんと曖昧にして回答しない。このように聡明な質問をした佑一郎は、公式サイトによると「今後、北海道で土木工学を学び、今は工部省で鉄道を通す仕事をしている」とあり、今後も登場するようだ。この設定から想像すると、モデルがいそうだ。小樽港をつくった高知出身で、万太郎のモデルである牧野富太郎と学友だった広井勇を人物造形の参考にしたのではないだろうか。佑一郎が出てきたときは、よくある主人公をいじめるかたき役かと思ったが、どうやら重要な役のようである。

 今後も佑一郎は自然に共に生きることを考え続けて生きることになるのではないだろうか。一方、主人公・万太郎もまさに自然と共生していくことになる。彼の場合は、野山に咲く草木に着目し、それを微細に観察し、特性を詳らかにし、記録していく。草木にはみんな名前がある。どれひとつとして同じではない。それを人間の生き方に重ね合わせていく。

 蘭光が川を見て、いまは穏やかだけれど時には人を飲み込むというようなことを言ったときにはどきりとなった。『らんまん』は過去ーー明治期を描きながらも、震災後文学ならぬ、震災後ドラマのひとつなのだと感じたのだ。

 万太郎が愛でる植物はけして人間に支配されず自由に育つが、それもまた踏まれたり天候によってうまく育つことができなかったりすることもある。それでも生きていく。種を残していく。このような植物の生態も震災後、私たちの心の拠り所になるだろう。

 前述したように『らんまん』の人たちはみんなままならない事情を抱えている。身分制度や男女差別、自然災害も病もこの時代だってあっただろう。震災後、ままならなさが募っているなかで何もかもがつながって見えてくる。ちょっと前までは戦争ドラマが主流だった朝ドラにも変化の波が来ている。

 ところで、第2週では、少年・万太郎を小林優仁、少年・竹雄を南出凌嘉、万太郎の姉・少女・綾を高橋真彩という子役が担当したが、第1週ではさらに幼い子役がそれぞれ演じていた。本役になるまで、3段階刻むことは珍しい。が、主人公に子どもができた場合は赤ちゃんから何段階も刻むのが朝ドラである。前作『舞いあがれ!』も数週の間に何段階も子役が投入されていた。子役から本役へーー第3段階を経ることで、主人公の成長もよくわかるような気がした。最初は龍馬(ディーン・フジオカ)を天狗と信じている幼さがあり、第2段階では、蘭光にきちんと学問を学び、ポテンシャルが芽を出しはじめ、神木隆之介による第3段階では、心が震える感動によって自分を駆動していく、豊かな生の喜びを持った人物に育ったように感じる。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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