『らんまん』のテーマに感じた朝ドラの成熟 “時空を超えて”託された龍馬の熱い想い

 もともと朝ドラは女性差別にあらがい女性が自由に好きなことをやれる世界を夢見る物語を作ってきたのだから、時代がようやく追いついたと言ってもいいのではないだろうか。万太郎の姉・綾(太田結乃)が女性は穢れているからと酒蔵に入れてもらえず、長女ながら当主になれず忸怩たる思いを抱えている。でも『らんまん』では、彼女が当主の条件は男女差ではなくそれぞれの個性によるものだと自分のなかで折り合いをつける。朝ドラがさらに一歩進んだといえるだろう。これまで男女差を埋めようとしてきた朝ドラが、男女の差ではなく個々の資質の問題と考えるところへと成熟をはじめた。『おかえりモネ』(2021年度前期)あたりから顕著になってきた、恵まれている者対恵まれていない者、正義対悪、男対女というような二項対立から解き放たれた物語づくりがじょじょに浸透してきているように感じるのだ。まだメッセージ性が先に立ち若干、硬さが残るのは新たな試みだからであろうか。

 第1週にお題目を入れなくてはならないという縛りをやや感じたところもあったが、龍馬の「己の心と命を燃やして 何かひとつことを成すために生まれてくるのじゃ 誰に命じられたことじゃない 己自身が決めてここにおるがじゃ」というセリフは実感がこもって聞こえた。

 たぶん、牧野富太郎は、SDGsのようなことを前提にしていたわけではなく、ただただ、植物に興味があって、心のままに深く深く探求していったはずだ。何かに命を燃やすことーーそれこそが生きるうえで最も大事なことであり、その想いが時空を超えて、龍馬から万太郎へ託されたと思うと、胸が熱くなった。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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