満島ひかり「“子どもたちにとって気になる大人”でありたい」 10代の経験と独立、そして今

 満島ひかりが50ものキャラクターの声を演じ分けているアニメがあるのを知っているだろうか? 2022年3月からNHK Eテレにて不定期で放送され、4月5日から満を持してレギュラー化される『アイラブみー』だ。5歳の主人公“みー”が抱く、こころやからだ、いのちに関するふとした疑問をアニメーションで描いた“じぶん探求ファンタジー番組”『アイラブみー』。満島は、主人公のみーをはじめとする全登場キャラクターの声を見事なまでに演じ分けており、レギュラー放送では劇中ソングの“歌い分け”も披露している。

 初めての放送から約1年、満島ひかりが番組への想いや、これまでの自分自身から現在まで、リアルサウンド映画部だけに語ってくれた必読のテキストを、ボリュームたっぷりでお届けする。

「のびのびできる社会をみんなで作れたら」

ーー『アイラブみー』は2022年の3月から不定期で放送が行われてきました。そもそも満島さんはこの番組のどういったところに惹かれて参加することにしたのでしょうか。

満島ひかり(以下、満島):番組のコンセプトのひとつに「5歳のための包括的性教育」というものがあって、まずそこに興味を持ちました。「5歳のため」と言っても、私たち大人も多くのことに気づかないまま成長していたり、疑問を持ったとしてもそのまま曖昧に通り過ぎているところもありますよね。5歳の主人公・みーを通して、カラダや心に起こる不思議に疑問を投げかけながら、みんなで立ち止まることができるのでは、と思ったのがきっかけでした。それから、監修で複数の識者の方が参加されるということも惹かれた理由のひとつです。

ーー東京大学名誉教授の汐見稔幸さんをはじめ、和光小学校幼稚園の北山ひと美さん、大妻女子大学の田中俊之さんなど、発達心理学や性教育、ジェンダーといった様々な分野のエキスパートの方たちが参加されていますよね。大人の自分が観ても純粋に楽しめる作品でしたし、そこに込められたメッセージは響くものがありました。

満島:よかった! 私は、この作品の作り手の一人になれたことがすごく嬉しいんです。かしこまった“教育”もいいけど、アニメーションの中で響かせられたら、どんなふうに広がりを生むのだろう? と。

ーーむしろそのほうがすんなりと入っていく可能性が高いですよね。

満島:私の甥っ子たちがみーと同じくらいの歳で、番組を観る彼らの反応がすごく面白くて。「はやいのがイチバン!……じゃないの?」の回の、“イチバン”にも人それぞれ尺度があって自分のイチバンも大事だけど、他の人のイチバンも認めてあげようというエピソードを観て、かけっこでイチバンになって威張っていた自分に「あ!」と気がついたり、「なんでおねしょをしちゃうんだろう?」の回では、おねしょのエピソードを観て「おねしょは自分だけじゃないんだ!」ってなったり(笑)。私には子どもはいませんが、“子どもたちにとって気になる大人”でありたいなと思っているんですよね。

ーー満島さんのその感じ、なんとなくわかる気がします。

満島:なんか、甥っ子とか子どもたちの姿を見ていて、子どもが集まれる場所を作りたいな、といつも思うんですよね。喉が渇いたら麦茶を飲みに行く場所を作りたいな、とか。

ーー“麦茶を飲みに行く場所”ですか?

満島:子どものころ、地元の沖縄にいたときに、学校の帰り道に他の人の家に行って、「喉かわいたから麦茶くださーい!」って麦茶を飲ませてもらっていたんですよ(笑)。

ーー都会ではなかなかできないことですね(笑)。

満島:「ありがとうございましたー! ついでにお菓子ありますか?」って(笑)。田舎なので、かなりのんびりしていたんでしょうね。今の子どもたちにも、そういう勝手で子どものままいられる場所やことがいっぱいあると楽しいなって。コロナウイルスが流行して、大人はもちろん、子どもたちの中にも、傷ついたり息苦しくなっている子が増えているとよく耳にするんです。難しいのは、大人が変に助けようとして近づきすぎてしまうと、それが逆効果になってしまうこともあること。もっと本質的なところで、のびのびできる社会をみんなで作れたらいいなと思うんです。

ーー『アイラブみー』はまさにそういう社会を作るための第一歩とも言えますよね。満島さんが参加することによって、作品の裾野もかなり広がったのではないかと。

満島:私を入り口にして作品を観てみたら、「いい感じの作品に出会った!」となるのが嬉しいです。『アイラブみー』で「満島ひかりが50役の声を担当するってどういうこと?」でもいいので、そこから多くの人に興味を持っていただけたら嬉しいです。

ーー改めて冷静になってみても、「満島ひかりが1番組で50役を演じる」って相当なインパクトですよね(笑)。キャスティングについては聞くところによると、企画当初、みーの性別がまだ決まっていないときに、どちらの声も演じられる存在として満島さんの名前が挙がったと。

満島:最初は実写でやりたいという話もあったらしいんですけど、さすがにそれは無理だったみたいで(笑)。初めに、「みーの声だけでもいいし、もし他にもできる声があったら面白いかもしれません」と言っていただいて、練習がてら録音することになったんです。それで声を出してみたら、「例えばパパもどうですか?」という話になり、試行錯誤したりするうちに「全部1人で演じるのも面白いかもしれません」なんて、ふわっとした感じで進んでいきました。最終的に全部を私が演じることになり、今のところ50役ほどになっているんです。

ーー(笑)。

満島:声を出すうちに楽しくなっちゃって。『アイラブみー』はプレスコという録音の仕方を採用していて、私の声を先に録ってから、そのあとにアニメーションを付けていく手法なんです。だからわりと自由にお芝居ができています。スタッフの皆さんも本当に素敵でピュアな方ばかりで。脚本の竹村(武司)さん、アニメーションディレクターの髙橋(龍之介)さん、プロデューサーの藤江(千紘)さんたちと一緒に、脚本やアニメーション、演技など、全てみんなで話し合いながら作っているイメージです。竹村さんも藤江さんもみーと同じ5歳くらいのお子さんがいるので、「実際にこういう質問されたらどうする?」みたいな話をしながら楽しく収録しています。みーの話し方は、甥っ子のモノマネから始めてみました(笑)。

ーーそうなんですね! わりと現場で生まれていくイメージなんですね。

満島:始まりは漠然としすぎていて、本当にできるのかなと思っていたんですけど、いざやってみたら私を含めみんなセッション向きの人ばかりで。それぞれお互いに意見を言い合って、それぞれのいいところを見つけ合いながら作品になっていくんです。「私たち天才じゃん!」って感じで(笑)。きっと収録の現場を見たら、「え、こんな感じでやってるの?」と驚くかも。のびのびと楽しい現場ですよ。

ーー50ものキャラクターを演じ分けていると、どのキャラクターがどの声だったか忘れてしまうことはないんですか?

満島:録音するときに、前回の録音で録ったそのキャラクターの音源を流してもらうので、意外と大丈夫なんですよ。最近はだんだん音源の確認がいらないほどになっています。

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