クライマックスは本年度ベストバウト 無茶に満ちた快作『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』

『ベビわる2』が続編として開拓した新境地

 アクション映画といえば、「無茶苦茶をやってナンボ」である。それはもちろん正解だ。ジャッキー・チェンがビルから落ちて、トム・クルーズが飛行機にブラ下がり、1000人の不良少年らが波止場で大乱闘して、バットマンがワイヤーで巨大トラックを縦回転させる。こういった無茶苦茶な瞬間がアクション映画の魅力だ。しかし一方で、こういった瞬間だけではダメなのだ。アクション映画では、アクションが炸裂するまでの「間」にこそ工夫と堅実さが求められる。「溜め」がなければ「爆発」のインパクトは薄まってしまう。この加減が非常に難しい。しかし今回ご紹介する『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』(2023年/以下『2ベイビー』)はその問題を見事に乗り越えた、堅実と工夫、そして無茶に満ちた快作だ。

 前作『ベイビーわるきゅーれ』(2021年)は、低予算&小規模公開ながら、その完成度と娯楽性の高さが映画ファンのあいだで話題になり、異例のロングランヒットになった。ちなみに、あらすじはこんな感じである。殺し屋をやっている女の子、ちさと(髙石あかり)とまひろ(伊澤彩織)は、殺しの腕はピカイチだが、それ以外は年相応にグダグダな2人組。高校卒業を機に2人暮らしを始めるが、生活は何一つ上手くいかない。バイトは次々とクビになり、2人の関係もギクシャクし始めて、おまけにヤクザまで襲ってきて……。突飛な設定ながら、どこまでアドリブなのか分からない自然かつギャグ満載の会話シーンと、スタントパフォーマーである伊澤彩織のキレキレのアクションで、立派なエンターテインメント作品に仕上がっていた。もちろん「“野原ひろしの名言が~”とか言う人は何をやってもダメ」的な、固有名詞が飛び交う(そして少しの毒がある)部分も特徴だ。

 そして本作『2ベイビー』は、まさに正統派続編である。予算が増えたのは一目瞭然で、アクションシーンのキレはパワーアップ。アクション監督の園村健介が開発したという“超”近距離の間合いでの高速の格闘シーン(これはちょっと海外の映画でも見ない)は、前作以上のキレ味で、と同時に尺を贅沢に使うグダグダ&ユーモラスな会話シーンも健在だ。相変わらず少しの悪意を感じるが、あくまで「少し」なのが心地よい。前作のツボは全て押さえていると言っていいだろう。しかし、本作はそれだけでは終わらない。ただ前作の繰り返しをするのではなく、新境地を開拓し、そのための工夫と堅実さが輝いているのだ。

 本作では「殺し屋」という設定が、前作以上にシリアスに、非常に重く描かれる。登場人物らは命のやり取りをしているのであって、それは主役のちさととまひろも違いはない。今回は彼女らの敵として、殺し屋組織内での成り上がりを画策する兄弟、ゆうり(丞威)とまこと(濱田龍臣)が登場する。この2人も殺し屋として頑張っているのだが、非正規で、割に合わない仕事ばかりさせられている。何人ものヤクザを修羅場の果てに殺し、焼肉で戦勝会をしたくても、ギャラの関係で生姜焼き定食で我慢する日々だ。前作にはなかった、敵側の悲哀をガッツリと描く。それは主人公のちさととまひろが歩んでいたかもしれない姿でもある。そんな両者が対峙・激突するクライマックスは、超絶技巧のアクション映画的な興奮と、ドラマの盛り上がりの相乗効果で、今のところ本年度ベストバウトだ。

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