『舞いあがれ!』『エール』朝ドラが向き合う“生みの苦しみ” 貴司はどう乗り越える?

「第一歌集は神さまからの贈り物。第二歌集は勢い。第三歌集からが、難しいんだよね」

 

 連続テレビ小説『舞いあがれ!』第117話の放送後、歌人の俵万智が自身のTwitterにそうつぶやいた。同回では久しぶりに貴司(赤楚衛二)の担当編集であるリュー北條(川島潤哉)が登場。第一歌集、第二歌集ともに売れ行きが良く、重版がかかった貴司に第三歌集の出版を進言する。だが、本人はあまり乗り気ではない様子で……。

 第25週のタイトルは「未来を信じて」。2025年大阪・関西万博で世界に東大阪が誇る町工場の技術をアピールできないかと夢を膨らませる舞(福原遥)とは対照的に、今週はこれまでのように短歌が詠めずに苦しむ貴司の姿が描かれる。ついに2週間後に迫った最終回に向け、今はどちらも“未来を信じる力”が試されている途中だ。

 彼らのようにまだこの世界には存在しない何かを生み出そうとすれば、必ずそこには苦しみが伴う。近年の朝ドラでも、この“生みの苦しみ”に直面する登場人物たちが描かれてきた。

豊川悦司が永野芽郁に施した“解放” 『半分、青い。』が描く創作の苦しみ

創作には多かれ少なかれプレッシャーがつきまとう。0から1を作り上げ、さらにそれを膨らませていくという作業にはとてつもないエネルギ…

 例えば、2018年度前期の『半分、青い。』では、少女漫画家を目指すヒロインの鈴愛(永野芽郁)が商業誌デビュー後に長いスランプに陥る。彼女の場合、漫画の師匠である秋風(豊川悦司)のアドバイスのおかげで一度はただ純粋に漫画を描くことが好きだった頃の気持ちに戻ることができるも、自分の才能に限界を感じて夢を諦めた。その後、鈴愛はバイト先で知り合った映画監督志望の涼次(間宮祥太朗)と結婚し、子どもを設けるも離婚。この王道とは言い難い朝ドラヒロインの物語は賛否が分かれるも、思い通りにいかない鈴愛の人生に共感する声も非常に多かったように記憶している。

『エール』裕一が応援歌の作曲に悩む “最大の幸福”である音の存在

応援歌の作曲を依頼された裕一(窪田正孝)は思うような曲が書けずに悩んでいた。行き詰まりの原因は明白で、裕一は「自分の音楽」にこだ…

 2020年度前期の『エール』では、主人公の裕一(窪田正孝)が作曲家を目指して福島から上京。レコード会社との専属契約を交わすも、自分の才能を誰かに認められたいという裕一の自我が前面に出た曲はなかなか採用されずにいた。そんな中、裕一は幼なじみで歌手を志す久志(山崎育三郎)の紹介で早稲田大学の新しい応援歌を作曲することに。しかし、ここでも西洋音楽へのこだわりを捨てられない裕一を変えたのは応援団長である田中(三浦貴大)の熱い思いだった。これによって裕一は独りよがりな音楽ではなく、誰かのための音楽を作れるようになるのだが、その裏で暗躍していたのが裕一の妻である音(二階堂ふみ)。実は田中に、裕一の心を動かしてほしいと頼んだのは彼女だった。

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