『罠の戦争』杉野遥亮演じる眞人が語る植物ネタの意味 動物との対比にみる作品のテーマ

 最終話へ向けて加速する『罠の戦争』(カンテレ・フジテレビ系)。草彅剛演じる鷲津の復讐劇のかたわらで、ひそかに話題を提供しているのが、蛯沢眞人(杉野遥亮)が披露する植物ネタだ。

 植物学専攻の大学院生だった眞人は、兄の復讐のため、大臣の犬飼(本田博太郎)に近づき、同じ思いを持つ鷲津の仲間になる。鷲津が国会議員になってからは、秘書として鷲津を支えてきた。そんな眞人の植物ネタは、一見すると、コミュニケーション力低めの眞人が、間をつなごうとして発したり、ふとした瞬間に漏れ出てしまうだけとも思える。しかし、調べていくと、そこにはドラマの展開上見逃すことのできない情報が含まれている。

 眞人の植物トークは先輩秘書の梨恵(小野花梨)が相手のことが多い。第1話で鷲津が犬飼の面倒ごとを一手に引き受けているとこぼす蛍原に、眞人は「知ってます? その昔キリストがはりつけにされた時、ハナミズキの木が使われたって」と返す。春に白い花を咲かせるハナミズキは街路樹として目にする機会も多い。花の形状が十字架に似ていることから伝説が生まれ、十字架に使われたことで木の高さも低くなってしまったとされる。英語でハナミズキは「dogwood(犬の木)」と呼ばれるが、秘書としてプライベートを犠牲にして犬飼に尽くす鷲津の比喩と、復讐によって罪を償わせるドラマの方向性を示していた。

 第2話で取り上げたのはネギ。「ネギって面白いですよね。1998年の分類体系ではユリ科からヒガンバナ科に移され……」。事務所の金庫番である虻川(田口浩正)の身辺を探る眞人が、支援者のネギ農家で口にした言葉だ。秋に真っ赤な花を咲かせるヒガンバナは球根に毒を含んでいる。切られてばかりのネギが、大輪の花を咲かせるユリではなく、彼岸を名前に持つ毒草の仲間だったことは、いざとなれば切り捨てられる秘書が議員を破滅に導く存在であることを暗示している。

 ヒガンバナ以外にも毒を持つ植物は登場する。第3話ではハマヒルガオに光が当たった。海辺に咲くハマヒルガオは、根や葉が内陸型と異なる。環境に適応しているのだが、実はヒルガオにも毒がある。鷲津は犬飼から見れば恩人に刃を向ける危険な存在で、腹に一物持った復讐者を毒のある植物に例えていると考えられる。植物の花言葉からは違う一面が見える。前述のネギには「くじけない心」という花言葉があった。第5話のサザンカには「困難に打ち克つ」という花言葉があり、総選挙に挑む鷲津の状況と合致していた。

「あいつらに教えてやる。踏みつけられたらどれだけ痛いか」

 『罠の戦争』の登場人物は、全員名前に動物が入っている。鷲津を筆頭に、秘書の眞人(蛯沢)、梨恵(蛍原)、貝沼(坂口涼太郎)がそうだし、政治家は鶴巻(岸部一徳)、鷹野(小澤征悦)、鴨井(片平なぎさ)など鳥類が多い。竜崎(高橋克典)も鳥の祖先は恐竜と同じなので同類だ。食物連鎖で上位の彼らに対して、もっぱら捕食される側にいるのが植物だ。第4話で「秘書は永田町の雑草」という台詞もあった。植物は基本的に自分から動いたり、能動的に他者に働きかけたりはしない。それでも踏まれれば傷つくし、刈り取られれば枯れる。もの言わぬ植物は、しいたげられる側の心情そのものなのだ。

関連記事