『舞いあがれ!』大人になった貴司に宿る“強い意志” 父親役は赤楚衛二の真価を引き出す

 病院の小さなテーブルに所狭しと置かれた名前カード。これらはすべて貴司(赤楚衛二)が考えた娘の名前だ。歌人として言葉をいつも大切にしている貴司らしく、ひとつひとつの名前にきちんとした意味や願いが込められていた。舞は「何があっても負けんと前に進んでほしい」という思いを込めて、娘を「歩(あゆみ)」と名付けた。連続テレビ小説『舞いあがれ!』(NHK総合)第112話の心温まる場面だ。

 思えば貴司は、舞と同じくらい波瀾万丈な人生を歩んでいる。高校卒業後、システムエンジニアとして就職するが、長時間の残業や休日出勤が続くなど仕事に忙殺される日々が続き、ある日突然退職届を提出。幼い頃に舞から贈られた絵葉書の風景を求めて五島へ。その後、本心を親友の舞や久留美(山下美月)、自身の両親に打ち明け、放浪の旅に。旅を終えると再び五島へ。そうしてだんだんと元気を取り戻してきた貴司は東大阪に戻り、新聞に掲載された短歌を褒めてくれた八木(又吉直樹)から、彼が経営していた古本屋「デラシネ」を託されたのだった。一度は心がぽっきり折れてしまった経験を持つ貴司。だが、それを乗り越え、念願かなって妻となった舞のことを、今でも昔と変わらず「舞ちゃん」と呼んでふんわり笑う姿は、ドラマをさらに温かいものにさせている。

 貴司を演じる赤楚衛二が、その名を一気に全国へと知らしめたのは、『仮面ライダービルド』(2017年/テレビ朝日系)の万丈龍我役ではないだろうか。万丈は謎の組織の人体実験により怪物にされそうになっていたプロの格闘家。口が悪くて喧嘩っ早いが、情には厚く、仮面ライダーとなった後の相方的存在である桐生(犬飼貴丈)との強い絆がドラマの見どころのひとつとなっていた。

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 人気俳優への登竜門と言われるこの『仮面ライダー』シリーズで印象深い演技を見せた赤楚は、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(2020年/テレビ東京系)で大ブレイクを果たし、その後も次々とドラマや映画へ出演。貧しくも温かい家庭で過ごし、愛に飢えた女社長・氷河(江口のりこ)を癒していく『SUPER RICH』(2021年/フジテレビ系)の春野や自分もパワハラを受けた職場で、同じようにパワハラを受けている同僚を助けようと、カフェで記録映像を撮っていた『石子と羽男―そんなコトで訴えます?―』の大庭(2022年/TBS系)などを演じた。いずれも万丈とは反対の性格である「気弱そうだが意思がとても強い」キャラなのだが、今やこれが赤楚の得意な役どころと言っても過言ではない。おどおどした仕草と時折、意を決したように相手の顔をしっかり見つめる表情がピッタリとハマっているのだ。

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