『100万回 言えばよかった』を盛り上げる 大人計画の技巧役者・荒川良々&平岩紙
平岩紙の声に宿る豊かな表現力
平岩演じる魚住叶恵も、本ドラマをより魅力的にしている立役者だ。序盤は、何かあるたびに譲が電話で相談している“実家のいいお姉ちゃん”に過ぎなかったが、次第に真理を突く需要なキャラクターとして存在感を増してきた。第3話ラストには悠依と直木による号泣必至の名場面があったが、第4話冒頭で、想い合うふたりの姿を電話で報告した譲に「あんたそれ、もやもやしたんじゃなくて、キュンとしたんじゃないの?」と指摘し、同じ第4話終盤では「頭で考えるより、身体で感じたことのほうが強いよ。人間だって生き物だもの」と突くなど、さすが寺の娘と言いたくなる。
そして譲が、直木と話す姿を直接見て、心配がよぎり、魚住家の書物を読み返した叶恵は、「霊と交流する能力を持つ者の中には、幽霊に乗り移られる者もいる。その場合、速やかに霊から離れなければ命を削られ、やがて命を落とす」と突き止める。悠依と直木のふたりに「譲と離れてください。私にとっては弟が大事」と真摯に話す姿からは、何の裏もないまっすぐさが伝わってきた。
演じる平岩は、役によってどんな色にも染まれるタイプの役者だ。1979年生まれの43歳で、荒川と同じく大人計画所属。2000年に行われた新人オーディションに合格し、同年に上演された名作ミュージカル『キレイ 神様と待ち合わせした女』でデビューを果たした。バラエティ番組『タイノッチ』(TBS系)でレギュラーを務めたり、『松本人志のコントMHK』(NHK総合)でコントに挑戦したりと、一見、堅物系に見えて、ジャンルレスに自由に飛んで見せる柔軟さを持つ。
この一見、堅物系に見えてというのが、平岩の面白いところで、彼女の、特に声には、最初は感情があまり乗っていないように感じられる。だが、聞くうちに、喜怒哀楽のさまざまな機微を繊細に乗せて表現してみせる、豊かな力があると気づかされる。静かにしかし確実に感情を揺さぶってくるのだ。その力が『100万回 言えばよかった』でも発揮されており、弟を心配する姉としての声が体の奥深くに入ってくる。第9回予告編では譲が「どうしてもってときは、僕の体使えっていったでしょ!」と直木に叫んでいた。でも今度はスリーアウトである。叶恵は、何か弟のために動くだろうか。
本作で好きなキャラクターとして姉・叶恵をあげる人も少なからずいるだろう。それも平岩が、熱すぎない非常にいい体温で演じているからに思える。人気作となっている『100万回 言えばよかった』だが、全く異なるサイドから支えている荒川と平岩をはじめ、脇のキャラクターの力も大きい(幽霊が見えると言う譲への反応がどこか愛らしい警部補・田島を演じる少路勇介も大人計画所属)。殺人事件も絡み、思いのほかミステリー要素が強くなった本作だが、やはりファンタジーラブストーリーとして終わりを迎えるはず。あと2回。思いはどう結実するだろう。
■放送情報
金曜ドラマ『100万回 言えばよかった』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:井上真央、佐藤健、シム・ウンギョン、板倉俊之(インパルス)、少路勇介、穂志もえか、近藤千尋、桜一花、香里奈、平岩紙ほか
脚本:安達奈緒子
プロデューサー:磯山晶、杉田彩佳
演出:金子文紀、山室大輔、古林淳太郎
編成:中西真央、吉藤芽衣
主題歌:マカロニえんぴつ「リンジュー・ラヴ」(TOY’S FACTORY)
製作:TBSスパークル、TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/100ie_tbs/
公式Twitter:@hyakumankai_tbs
公式Instagram:hyakumankai_tbs