『星降る夜に』情報の引き算で吉高由里子に寄り添う北村匠海 愛ゆえに苦しむ登場人物たち

愛しているからこそ、苦しみから逃れられないことも

 そしてマロニエ産婦人科医院にやって来た、伴(ムロツヨシ)もまた愛ゆえに苦しんでいるように見えた。5年前、鈴が救うことのできなかった伴の妻の命。手の施しようがなかったのは、医療裁判でも証明された。それでも伴は納得することはできなかった。鈴に罵詈雑言を浴びせ、待合室で暴れて「被害者は俺だ」と叫ぶ。鈴は周りに守られるのに、自分は妻の忘れ形見となった娘の世話と仕事が両立できず、会社をクビになった、と。

 我を忘れているかのように復讐に燃える伴だが、それでも静止に入った麻里奈のお腹に赤ちゃんがいるのだと知ると、その掴んだ手をそっと離す。そして娘が「お父さん、帰ろう」と声をかければ冷静さを取り戻す。その様子に、彼もどこかでこうした行為が不毛であることをわかっているようだった。きっと心のどこかで、自覚はしているのではないだろうか。こんなことをしても、妻は喜ばないし、何より自分を苦しめる一方だということを。でも、逃れられない。自分を追い詰めて、誰かを恨んで……そうすることでしか生きられない。もしかしたら、愛する妻を亡くした現実を受け入れるのは、それくらい辛いのだと誰かにわかってもらいたいのかもしれない。

 ずっと伴の「人殺し」の声が耳から離れなかった鈴も、少し近いものがあったのではないか。医療ミスはなかった。それ以上できることはないと言い切れる。でも、その事実を重く受け止めているからこそ、まるで幸せになってはいけないかのように、キャリアも諦めて静かに生きているように見えた。それが一星と出会い、愛することで、同僚から「最近キャラ変した」なんて言われるほど明るくなった。前を向いて、自分自身を愛する気持ちが湧いてきたようだった。

 辛い過去と共に生き、笑顔で過ごすことができるタイミングがいつ来るのか。それは本人でさえわからない。でも、伴には1日も早くそんな日が来ることを願ってやまない。なぜなら、彼にはその笑顔を一番近くで待っている娘がいるのだから。

 伴が妻の死について鈴を恨むほど、自分が生まれたことに罪悪感を持ってしまわないかと、娘の心が気がかりでならない。どうか娘を愛することで、その存在を遺してくれた妻を、そして自分自身を愛する気持ちが湧いてほしい。

 愛するがゆえに苦しむことになる。でも、愛することで苦しみから脱することもできる。その一筋縄ではいかない愛の行き場を、このドラマは優しく寄り添い、そっと包み込んでくれるようだ。自分なりにできる愛し方を信じて、周りと一緒に幸せになって、と。

■放送情報
『星降る夜に』
テレビ朝日系にて、毎週火曜21:00~21:54放送
出演:吉高由里子、北村匠海、ディーン・フジオカ、千葉雄大、猫背椿、長井短、中村里帆、吉柳咲良、駒木根葵汰、若林拓也、宮澤美保、ドロンズ石本、五十嵐由美子、寺澤英弥、光石研、水野美紀
脚本:大石静
監督:深川栄洋、山本大輔
ゼネラルプロデューサー:服部宣之
プロデューサー:貴島彩理、本郷達也
音楽:得田真裕
制作:テレビ朝日、MMJ
©︎テレビ朝日
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/hoshifuru_yoruni/
公式Twitter:@Hoshifuru_ex
公式Instagram:@hoshifuru_ex

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