『舞いあがれ!』が大切にする“ゆっくり”の精神 “猛スピード”の八木莉可子が物語を動かす
罪も恋も心のすき間に忍び込むものである。“朝ドラ”ことNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』は前半、罪、後半、恋でできていた。第19週のサブタイトルは「告白」で、いよいよ舞(福原遥)と貴司(赤楚衛二)に進展が? と思ったら、悠人(横山裕)のインサイダー取引疑惑から裁判、懲役3年執行猶予5年というなかなか重たいエピソードからはじまって、「告白」に関しては、舞と貴司ではなく、一太(若林元太)が百花(尾本祐菜)に思いきって告白するエピソードだった。
前半、話がなかなかヘビーだった分、一太と百花の展開にはほっこり。悠人も、罪を認め、逃げずにきちんと責任をとるという清々しさと、東京に戻ってきちんと物事を整理する前に、父・浩太(高橋克典)との思い出のカレーをめぐみ(永作博美)と舞と食べたり、久留美(山下美月)に看病してくれたお礼にうめづのお好み焼きを手渡したりするあたたかなシーンで、重苦しい空気を払拭した形となった。
真面目に勉強し、投資の仕事をしてきて、天才とまで言われるほどになった悠人だったが顧客のためについインサイダー取引に手を出してしまったのは、心のすき間に魔が差したとしか言いようがない。
恋も同じく、心のすき間にふと忍び込み、気づいたときには流されてしまうことがある。舞は初恋の柏木(目黒蓮)とはたぶんそういう感じで、心のすき間にぐいぐい柏木が入ってきて、来る者拒まずでつきあったものの、お互い、住む世界が違ったら別れるしかなくなったという印象である。つきあわなかったら、いまでも友達でいられたのに、同期なのに連絡がとれないままでいることが舞には引っかかって、次の恋に進めない。
一太と百花に関しては、一太の心のすき間に、突如百花が入って、あれよあれよという間にどんどん大きくなっていく。だが、百花がどんなに五島が好きでも、しょせんは大阪の人。観光で五島に来たり、大阪での五島の物産展を企画したりしても、それは外側からの関わりである。一太は、五島で生きると決めたときから外のひとを好きにならないと考えていたという。これはおそらく、初恋の舞があっという間に五島から東大阪に帰っていってしまった経験があるからだろう。過去の苦い経験があったにもかかわらず、恋は理性ではなく本能、一太はまたしても外の人を好きになってしまった。玉砕覚悟で告白すると、なんと「ゆっくり」時間をかけて一太を知っていきたいという返事が。百花がとても誠実な人で良かった。
1年で1ミリしか伸びず、ゆっくり成長していく五島の椿のように「ゆっくり」を、『舞いあがれ!』では大事にしているようだ。ゆっくり伸びた木を使って作った製品はホッとする。それと同じで、早急に決断せずに、時間をかけて物事を見極めていくことは大事である。