溝端淳平が『どうする家康』の展開を左右する? 演技巧者としての真価が明らかに

 たしかに、第3話「三河平定戦」での元康の裏切りを知ってもなお氏真は自身を抑えているようだった。しかしながらその内面では驚きと怒りと悲しみとが渦を巻き、彼の硬直した全身から漏れ出ているのを感じた。内なる激しい感情を生み出しながらも、外へ出ぬよう必死に抑え込むーー。結果として氏真の心は破裂し、息を呑んで見守る私たちのもとへと彼の激情は届いた。溝端のこのようなアプローチが、あの緊張感に満ちたシーンを生み出したのだ。さすがは踏んできた場数が違う。これからの「どうする氏真」的な展開に期待が高まるというものだ。

 筆者にとって時代劇での溝端というと、やはり舞台『ムサシ』での姿。井上ひさしの戯曲を蜷川幸雄が演出し、2009年の初演以降、何度も再演を重ねている演目だ。同作に溝端が佐々木小次郎役で参加しているのは2013年からで、筆者が観劇したのは2018年のこと。つまり、蜷川が亡くなってしまった後でのことだ。完全なる“蜷川版”を見逃した事実に忸怩たる思いがあるが、しかし同時に、初めて蜷川のいない『ムサシ』が生まれる瞬間に立ち会うことができたのも事実。板の上で溝端が対峙したのは、蜷川の愛弟子のような存在である藤原竜也だ。開幕直後に劇場に響き渡る、二人の叫び声。この場面に立ち会ったとき、演劇シーンが大きく変わっていくのを肌で感じた。その当事者として、いち演技者として、溝端はそのシーンの中心にいたのだ。その後の彼の演技巧者ぶりは広く知られているとおりだ。古典劇も現代劇も、何でもござれである。

 結論にたどり着くのに、少し遠回りをしてしまった。さて、“溝端淳平=今川氏真”はこれからどう動くのか。「どうする氏真」のエピソードの進展とともに、溝端の真価も明らかになってくることだろう。

■放送情報
『どうする家康』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
※初回15分拡大版
主演:松本潤
脚本:古沢良太
制作統括:磯智明
演出統括:加藤拓
音楽:稲本響
写真提供=NHK

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