『星の王子さま』がなぜ“音楽朗読劇”に? 演出家とプロデューサーが語る“気づき”の視点

朗読劇『星の王子さま』に制作陣が込めた思い

 音楽朗読劇『星の王子さま Le Petit Prince ~きみとぼく~』が、1月26日から29日、2月2日から5日にかけて、南青山の劇場BAROOMにて開催される。アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリによる名作を、日替わりキャストによる2人芝居の“音楽朗読劇”として展開する本公演。キャストには、小倉久寛×水夏希、戸田恵子×植木豪、吉本実憂×木戸大聖、新谷ゆづみ×阿部よしつぐ、島田歌穂×戸井勝海、佐久間レイ×上原理生、平野綾×須藤理彩、彩乃かなみ×市毛良枝の8組16名が決まっている。リアルサウンド映画部では、ラジオドラマを多数手がける本作演出の小見山佳典とプロデューサーの小川仁美にインタビューを行い、音楽朗読劇として『星の王子さま』を作ろうとした背景や、配信ではない“生だからこその魅力”などについて語り合ってもらった。(編集部)

8人の「王子さま」がいて、8通りのドラマがある

ーーまず、“知っているようで知らない”作品として『星の王子さま』が選ばれた理由について教えてください。

小見山佳典(以下、小見山):知っているつもり、読んだつもりになっている作品ってあるじゃないですか。僕自身も特に若い頃は「ああ、『星の王子さま』ね」というふうに、確かに読んだことはあるし、ストーリーのラインもわかっていたつもりでした。ただ、改めてじっくり読んでみると「そうか、そういうことか」ってわかったことがあったんですよね。それはもちろん、自分自身が年齢を重ねたことで見方が変わったことも関係していると思う。そういった“新たな気づき”を改めて感じたんです。題材としては舞台や映画をはじめ何度も様々な表現をされてきた作品でもあるので、今さらという部分を感じるかもしれません。ただ、知っていると思っていたけど、改めてもう一回視点を変えて読んだり、今回の朗読劇を観ていただいたりすることで“気づき”を得られるんじゃないかと思い、選びました。

小川仁美(以下、小川):偶然にも3月末に『星の王子さまミュージアム』が閉館するというタイミングに重なりましたが、その情報が入る前から企画は始まっていました。演出の小見山さんと以前コンサートを作らせていただいたときに、もう一つ何かコンサートではない形で何か作っていきたいなと思ったんです。今回は小見山さん側からの企画にはなりますが、閉館のことも含め、初めて自分が意図せぬところで、何かに導かれているというか、自分の目に見えないものが引き合わせてくれたように感じます。

ーー以前コンサートを一緒に作られたとのことですが、今回「朗読劇」という違うフォーマットで改めてご一緒したご感想は?

小川:以前ご一緒したのは、いろんなミュージカルのオムニバスのコンサートだったので、一つずつの作品を積み上げていくというより、抜粋して皆さんにお伝えする形でした。今回は台本もあり、一つずつ重なっていく時間が“刺激的”というか、何にも変え難い、私にとってはそれがまさに『星の王子さま』で言われている「絆」に感じました。共にする時間が多ければ多いほど、何か良いものが生み出せるというワクワク感がありましたね。

小見山佳典

小見山:小川さんとやったステージはミュージカルナンバーで綴るライブステージというコンセプトでした。だからもちろんミュージカルを描きたいけど、そんな時間は全体の中で取れなくて。でもいろんな曲を少しドラマチックに表現しました。僕は元々テレビドラマなどの映像で演出やプロデュースをやってきたので、歌の中にあるドラマ性をなんとかステージの中で表現したいなと思って、ご一緒させていただいたんです。それはそれでお客さんに楽しんでもらえたかなとは思っていますが、その延長線上でいわゆる「音楽性のあるリーディング」を、「二人芝居」という限られたキャストで表現できたらどんな形になるかなと思って今回小川さんと相談し、実現することができました。今は稽古中ですが、座席とステージの距離も近いので、俳優さんたちの息遣い、歌への熱い思いがより表現できたらなと思っています。

ーーキャストも日替わりで豪華な顔ぶれですが、稽古中のプロセスで印象的だったことはありますか?

小見山:今、8組16人の俳優陣と稽古中なのですが、つまりそれは「王子さま」が8人、8通りの「王子さま」がいるというわけなんです(笑)。いろんな表現があるわけですよ。その感情の波というか渦というか、つまりは感動がぐわっと押し寄せてくる。それぞれのお芝居、感情があるんです。演出をしていて贅沢さを感じつつ、そういった皆さんの心地よいエネルギーを肌で感じていて、観客の皆さんにもきっと伝わると思います。

小川:キャスティングを一緒にさせていただきましたが、「この方とこの方なら想像できない」というような、他では見られない組み合わせで、どの回でもいろんなアプローチを見ていただける点にこだわりました。もちろん馴染みの組み合わせもありますが、制作側の自分たちも新しい世界が見られるかも、楽しめるかも」という思いがありました。そういったところも、みなさんに楽しんでいただけると感じています。自分自身が見たいと思うキャスティングができたと思いますが、どの組み合わせの回も素晴らしいです。毎回観にきてほしいですね。小見山さんの台本が8冊あるので(笑)。

小見山:そう、8冊くださいってお願いしました(笑)。1冊だと書き込みが多すぎて「これは誰へ向けたものだ」ってなりそうだったので。ストーリーはもちろん同じですが、どういう感情でそのセリフを言うのか、動きがあるとすればどんな動きになるのか、そこには8通りのドラマがあると思うし、「全てを同じにしましょう」ということではない方がいいと思いました。当然ながら感情の発露を無理やり型の中に押し込めない方がいいと感じたので。そういう意味では、8通りのストーリーがあるということかもしれませんね。

小川:コロナ禍なのでキャストのみなさんに、本稽古が始まる前に個人稽古をしてもらっていたんです。伴奏・作曲の滝澤みのりさんに音楽資料を事前に作っていただいて、それを台本と合わせてみなさんに送って、「練習をしておいてください」と。そして本稽古では、一人の戦いをされていた役者さんがいざ集まって本読みをするわけで、そのときに平面だったものが急に立体になる瞬間を私は体感したんです。そういった文字が立体化される瞬間に立ち会えたこと自体に感動しましたね。なかなか経験できないことなので。結構、衝撃的でした。役者さんが稽古をし始めて台本を読み進める中で、小見山さんの台本にどんどん肉がついていく過程はワクワクするものです。

小川仁美

ーー先ほど『星の王子さま』が題材に選ばれた理由をお話しいただきましたが、他に今回の朗読劇の候補となり得る“知っているつもりだった”作品はあったのでしょうか?

小見山:候補というか、よくよく考えてみるとそういった古典的な少年・少女向けの小説、いわゆる児童文学はどこかで皆、子供時代に読んでいますよね。僕も有名どころはだいたい読んでいたつもりだったんです。例えば『ピーターパン』。あの小説は『ピーター・パンとウェンディ』というタイトルなんですよね。それも読んだし、ディズニーの映画も観たし、舞台も観た。でも改めて読むと、「ああそうか」となるんです。もちろんピーターパンの冒険の話でもあるし、ウェンディという女の子の話でもあるのだけど、ウェンディのお母さんの話でもあるんですよね。というのも、ウェンディが大人になると“お母さん”になるわけで、そしてもし彼女に女の子が生まれたら……。そういう「母と娘」の話でもあるなと。子供の頃は『ピーターパン』はピーターがフック船長をやっつける話だと思っていたし、そういうものでもあるけれど、大人になって読むと違う話にも感じるんです。そういう意味で、読んだつもりでいたなと思いますね。実はそういう作品が他にもいっぱいあるんです。『ピノッキオ』もそうですね。児童文学って、「愛」「絆」「友情」というものがもちろん描かれるけれど、意外と名作と言われるものは「死と老い」が底辺に描かれているように感じるんです。実は結構残酷な話もあって、「深いな」と気付いたりするわけです。これからこの企画がどうなるのかわかりませんが、そういったものをテーマに、今後も朗読劇をやるのは良いなと思っています。

ーー児童文学の再解釈的な面白さもありますね。それは多くの人が知っている題材だからこそできるようにも感じます。

小見山:今回の『星の王子さま』も一応“音楽朗読劇”と名づけさせてもらって、楽曲を挿入しながら作りました。でもその歌っていうのは、説明や解説ではなく、もう少しテーマを深堀りしていくメロディラインと詞なんです。リリックは作家の樋口ミユさんに書いていただきました。楽しくて、口ずさみたくなるような非常に優しいメロディーなんです。本作は、そういった音楽性の豊かなステージになると思います。

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