『舞いあがれ!』赤楚衛二の本領発揮か 「アイラブユー」の歌詞とリンクする貴司の眼差し

<どんな言葉が 願いが景色が 君を笑顔に幸せにするだろう>

 back numberによる主題歌「アイラブユー」を聞くたびに、それらの詩が全て貴司(赤楚衛二)から舞(福原遥)に送られたもののような気がしてならない。『舞いあがれ!』(NHK総合)第78話では、舞がデラシネで貴司と共に過ごす時間、そして航空機部品のセミナーに参加する様子が描かれた。

 デラシネには、幼少期の貴司と舞を思わせるような少年・少女がいつも出入りしている。彼らからしたら(視聴者の私としても)、舞と貴司は付き合ってるとか結婚しているのかってくらい安定した距離感だ。子供たちが思わず「付き合ってるの?」と聞いてしまうのも無理はないけど、お約束と言わんばかりに「友達やで」の即答が返ってくる。

 舞のその言葉を聞いて貴司は何を思っただろう。今回は彼が短歌の芥川賞ともいわれる長山短歌賞に応募する一方で、舞が父の夢を叶える大きな一歩を踏み出す。二人揃って夢に向かって前進するような回なのが印象的だった。二人の時は二人だけの時間の流れを感じて、外では頑張ってくるというのは、もう完成系に近い支え合いの形ではないだろうか。

 賞に応募する貴司は、実はかなり緊張をしていた。それも無理ないと思うのは、おそらく彼がこういった形で何かに向き合うこと自体、下手したら会社を辞める時ぶりのように感じるから。会社を辞めてから、各地で放浪をして、気ままに短歌を書いてきた貴司。五島ではばんば(高畑淳子)の手伝いをしていたこともあり、決して社会に向き合ってこなかったというわけではない。ただ、その間の執筆活動は己の内側に向き合う行為だ。そして賞に応募することは、己の外に向き合う行為である。

 「貴司くんの思いが伝わりますように」と封筒に念を送る舞をじっくり、余すことなく観察するように見つめる貴司。その表情やまなざしの深さに、赤楚衛二の表現力の高さが伺える。貴司が舞の所作を見ていたかったり、彼女の気持ちを知りたい、汲み取りたいと見つめる一方で、私たちはそんな貴司くんの所作や気持ちを理解したいと、彼のことを見つめてしまうのかもしれない。

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