『大奥』斉藤由貴演じる春日局が恐ろしい 原作にはない福士蒼汰のセリフが意味するもの

 原作にはない有功の台詞はとても意味のあるものであり、作品への解像度を高めてくれる。これは実写化の一つの成功パターンといえるだろう。また、前回同様に今回も文句のつけようがないキャスティングにも唸らされる。まずもって、本作は主役である福士蒼汰と堀田真由の代表作となることは間違いない。

 福士が演じた有功は穏やかな微笑みと京なまりの優しい口調で相手の心を一瞬にして絆すが、決して周りに媚びへつらうような気弱な青年ではない。一本軸が通っており、嫌味を言ってくる御中臈たちは機転の効いた返しで黙らせる。20代にして、あれだけ空気をピシッと一変するだけの威厳を放てる俳優が他にいるだろうか。一方で、「もう何も考えたない……」と零す姿を見て、有功の柔らかい心のひだに触れた気がした。

 堀田が演じる家光は見た目こそ、特にその小姓姿はまだまだあどけない子供にしか見えないが、想像を絶するような人生を送ってきた難しい役柄だ。自分という人間を大切にしてくれない周りの大人たちにも、そこから抜け出せない現状にも絶望している。そんな中、他の人とはどこか違う有功に“希望”のようなものを見出し、甘えたい気持ちはあれど、自分の思い通りにならないことにイライラもする。そうした根っこにある家光の純真無垢な心を堀田は見事に表現していた。

 太平の世が訪れてまだ間もない時代を背景にしたこの編は常に張り詰めた空気が漂う。有功と家光を取り巻く人物もまた曲者ぞろいであり、春日局に関しては斉藤由貴の怪演によりその恐ろしさが際立った。しかし、完全な悪ではなく、幕府と世の平和を守ろうとする彼女なりの信念の強さも同時に伝わってくる。眞島秀和が演じる多くを語らぬ稲葉も、岡山天音演じる原作以上に飄々とした村瀬も、何を考えているのか全く読めないだけにサスペンス要素も付随した『大奥』からますます目が離せない。

■放送情報
ドラマ10『大奥』
NHK総合にて、毎週火曜 22:00~22:45放送
出演:福士蒼汰、堀田真由、斉藤由貴、仲里依紗、山本耕史、竜雷太、中島裕翔、冨永愛、風間俊介、貫地谷しほり、片岡愛之助ほか
原作:よしながふみ『大奥』
脚本:森下佳子
制作統括:藤並英樹
主題歌:幾田りら
音楽:KOHTA YAMAMOTO
プロデューサー:舩田遼介、松田恭典
演出:大原拓、田島彰洋、川野秀昭
写真提供=NHK
©よしながふみ/白泉社

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