『舞いあがれ!』横山裕が見た高橋克典の背中 “歩みノート”が悠人の救いに?

 だけど、浩太に関しては“良い父親”か、“悪い父親”かの二軸では語れない複雑さがある。特に悠人の目線から見た彼はどうだろう。幼い頃の悠人に浩太は我慢を強いるところがあった。受験期に両親は身体の弱い妹にかかりきり。不満を漏らした悠人に浩太は「舞は病気なんや、しゃあないやろ」と言うだけで、気持ちを慮ろうとはしなかった。工場の経営が傾けば、私立ではなく公立の学校に進学することを勧められる。そんな状況下で育った悠人が、他人を信じられなくなるのも無理はない。悠人にとって信じられるのは自分と、昔は飽きるほどに食べていたのに、ずっと変わらず美味しい「うめづ」のお好み焼きだけだった。

 何が起きようとも自分の人生を左右されることのない知を身に付け、激動の時代をサバイブしてきた悠人。地道に働き苦労している父親を見てきたからこそ、指一本動かすだけで億を稼ぎ出す投資家を目指した。“反面教師”と言えば、聞こえが悪いかもしれないが、浩太は悠人に良いも悪いも背中で語った。それは親として大事な役目だと思う。

 世の中お金が全てではないが、お金があれば選択肢が広がる。自由に夢を描くことができる。個人投資家からファンドマネージャーになった悠人の仕事は、お客さんのお金を有望な会社に投資して増やし、その人に夢を見せることでもあるのだ。悠人は浩太に自分の仕事を説明するとき、いつも雄弁になる。それは、「そら、ええ夢や」と浩太に言ってもらいたかったからではないだろうか。

 だが、ついぞ悠人の思いは浩太に伝わらないまま、喧嘩別れとなってしまった。悠人とは対照的に、退職のタイミングで浩太としっかりお別れができた古株の職人・結城(葵揚)。「よそに引き抜かれんのは悔しいけどな。それだけの腕前になったっちゅうことや。誇らしいで」という力強い言葉を浩太にもらった結城は胸を打たれる。こういう関係性が、悠人と浩太もいつか築けたかもしれない。「時代が違っていたら」と、どうしても思ってしまう。

 だけど、悠人は「早く会社を売っておけば」と思うだろう。損切りの大切さをもっと強く説かなかったことを後悔し、自分を責めてしまうかもしれない。そんな悠人を救ってくれるかも知れないものが一つだけある。それは浩太が「岩倉螺子製作所」から「株式会社IWAKURA」になってから、毎日の出来事やアイデアを記している“歩みノート”だ。浩太は雑誌で悠人がインタビューを受けた記事を読み、そこに何かを記していた。彼は悠人が語る言葉に何を思ったのだろうか。

 どうか、そこに悠人がこれからを生きていける言葉がありますように。家族旅行はもう叶わずとも、「飛行機の部品を作る」という浩太の夢が残された家族の手で叶えられ、みんなの思いが飛行機に乗ることを願う。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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