『舞いあがれ!』初週から描いてきた真髄は五島にあり 再び“チーフ脚本・桑原亮子”章へ
連続テレビ小説『舞いあがれ!』(NHK総合)の第12週となる「翼を休める島」が放送された。航空学校を卒業した舞(福原遥)たちは、それぞれの未来へ羽ばたこうとしていた。だがリーマンショックの影響は日本にも及び、不況のため舞の入社の時期も1年先送りになってしまう。週のタイトルの通り、舞は五島のばんば(高畑淳子)のもとで、しばし翼を休めるのであった。
4週間の航空学校編が終わり、第12週からはチーフ脚本家の桑原亮子が戻ってきた。『心の傷を癒すということ』(NHK総合)、『彼女が成仏できない理由』(NHK総合)などのドラマ脚本を手掛けてきた桑原は、脚本家であると同時に歌人でもある。その短歌は2011年1月の「歌会始の儀」において入選者10人に選出されるなど、高い評価を得ている。温かい人物描写と、独特の心の距離を丁寧に描き出す桑原の脚本には、多くの視聴者が魅了されていることだろう。
週始めとなる第56話では、航空学校を辞めて実家のスーパーに戻っていた水島(佐野弘樹)が久々に登場。航空学校の仲間と居酒屋にて酒を酌み交わした。このとき水島自身が作ったという惣菜を差し入れするにあたり、店員に「持ち込み大丈夫ですか?」と丁寧に尋ねるシーンがあった。ドラマならば割愛してしまいそうなこの些細なやりとりを、あえて15分しか尺のない朝ドラでしっかり盛り込む細やかさとリアリティこそが桑原脚本の妙なのである。
また、第12週半ばからは桑原らしさを感じさせる「人との距離感」の絶妙な描写が多数見られたように思う。例えば、第58話で舞が初対面の朝陽(又野暁仁)と縁側に座ったときのことだが、ここで舞はわざわざ引き戸1枚分の距離を確保しながら座っている。とりわけ積極的に話しかけるわけでもなく、舞はただそこで操縦の練習をしていた。それでいながら、朝陽が並べていた木の実がなくなったことにはすぐに気づき「どうぞ」と差し出す気配りや、木の実の位置が星を表していることにも気付くなど、朝陽の心にしっかりと寄り添っているように見える。自分を曲げられず級友になじめない朝陽を、腫れ物に触るように扱うでもなく、かといって一気に距離を縮めようとするわけでもない。この絶妙な距離感が、多くの視聴者の心に安心感を与えているのだろう。