『劇場版 転生したらスライムだった件 紅蓮の絆編』はシリーズ未見の人にこそ薦めたい

 『劇場版 転生したらスライムだった件 紅蓮の絆編』が公開され、シリーズ初の挑戦となる劇場版でありながら大ヒットを記録している。原作も含めたシリーズ全体で若者を中心に幅広い世代から高い人気を誇る『転生したらスライムだった件』(以下、『転スラ』)。おそらく多少なりともアニメを知っている人であれば「転生もの」という言葉は少なからず耳にしたことがあるだろう。この『転スラ』もいわゆる「転生もの」に属するタイプの作品の一つである。特に最近ではいわゆる「転生もの」を原作としたアニメが増えている背景がありながらも、数々の新作作品にも負けず、『転スラ』への注目度は上がっていくばかりだ。

 まず『転スラ』の話をする前に「転生もの」が流行っている背景を簡単にさらっておこう。考えられる理由としては、現実世界で活躍することができなかった主人公が異世界で自分の居場所を見つけ、そこで成功していく様が観ていてスッキリするという点が大きい。

 さらには、「あの時こうしたら……」「なんであの時に……」など誰しもが抱える悩み、そしていっそ「転生できたら……」という無意識下で誰もが持っていた“願望”も詰め込んで表現することが「転生もの」という作品では顕著であり、それによって多大な共感を世の中から勝ち得たことは間違いがない。そして「異世界転生」というわかりやすいワードで共通言語化された結果、現在の「転生もの」作品の人気が今も収まらずに継続している所以の一つなのだろうと推察される。

 その「転生もの」の中でも絶大な支持を得ているのが、WEB小説から始まりコミカライズ、TVアニメへと輪を広げ、大人気となっている『転スラ』なのである。WEB小説投稿サイト「小説家になろう」にて掲載されているWEB小説は現在も同サイトでトップを維持。書籍の発行部数もシリーズ累計で3,000万部を突破している。日本のみならず世界でも人気を博している『転スラ』だが、そんな世界中の熱狂的なファンの期待をさらに超えていく劇場版に、これから先もまだまだ主人公・リムルの快進撃は続くのだろうと心が躍った。

 本作は、原作者である伏瀬が自ら原案を務めたオリジナルストーリーが展開されるため、初めて『転スラ』に触れる人でも十分に作品の良さを楽しむことができる内容になっている。本記事では、今回の劇場版にも共通する『転スラ』がファンの心を掴んで離さない理由を記していこう。

主人公・リムルが示す“リーダーのあるべき姿”

 『転スラ』の魅力の一つに「悩みを抱えた存在に寄り添う」ような、キャラ描写の丁寧さが挙げられる。主人公のリムルは、平凡なサラリーマンからスライムとして異世界に転生したキャラクター。異世界で国を作っていく中で、さまざまな事情を持った魔物たちに出会う。

 時にはぶつかることもありながらも、最終的にはみなリムルの人柄やリムルが仲間たちと一緒に作った魔物の国【ジュラ・テンペスト連邦国】の居心地の良さに惹かれていく。武力だけでなく心の触れ合いを持って信頼を築いていく過程がしっかりと描かれているので、自然とお気に入りの“推しキャラ”も生まれやすい。また、『転スラ』は変身時のリムルを筆頭に、キャラクターが美男美女揃いなので視覚的な楽しみという部分でも画面の華やかさが観ていて楽しい。

 TVアニメで放送された物語では、リムルは仲間たちに慕われ、国を豊かに発展させていく。圧倒的な強さで敵を倒しながらも、戦いが終われば、その敵すらもあたたかく迎え入れ味方にしてしまうリムル。その器の広さは、観ていて純粋に気持ちが良い。リムルが個性豊かなメンバーたちを率いるものとして皆の尊敬の目を集める姿に「自分も異世界転生をしたら……」とつい異世界へ想いを馳せてしまった。リムルが頼もしい領主になっていく姿は多くの視聴者にとって、「こうなれたら」「こんな人が上に立って導いてくれたら」という願望を表しているように思う。

 そしてリムルの的確であたたかなアドバイスには、時に観ているこちらがハッとさせられる。

 今回の劇場版でも、リムルの頼もしい一面が垣間見えるシーンがある。ある理由から大鬼族(オーガ)の生き残りであるヒイロを助けたラージャ小亜国の女王・トワが、「自分の行いは“救い”ではなく“打算”なのではないか」とリムルに不安を吐き出す場面だ。

 「私はずるいのです……」と不安そうに話し始めるトワに向かって「(俺は)打算が悪いとは思わないけどね!」と明るく彼女に寄り添い、彼女を元気づけるリムル。元の世界ではどこにでもいるサラリーマンだったはずのリムルが、たくさんの仲間に囲まれ、国を興し、様々な経験を積んできた結果、悩んでいる誰かの力になっていく場面に心をくすぐられるファンも多いはずだ。そして何より、キャラクターが抱えている心の弱さに対してきちんと折り合いをつけて丁寧に向き合っていく姿こそが、回を重ねるごとに私たちがリムルと仲間たちの絆に惹かれていく大きな理由なのだと思う。

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