2022年の年間ベスト企画

小野寺系の「2022年 年間ベスト映画TOP10」 “人間がどう生きるのか”という思索へ

 そんな世界のなかで、人間ならざるものの死生観から、“人間がどう生きるのか”を、深いところで描いた『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』は、必見作といえる。余裕のなくなった社会では、深い思索や倫理観よりも、最少の努力で最大の利益を得ようとする言説が好まれる。それは、詭弁で議論を混ぜっ返す非建設的な態度が流行していることからも分かるだろう。

『ハウス・オブ・グッチ』©︎2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

 そんないまだからこそ、“人間がどう生きるのか”という思索へと、一人ひとりが立ち戻らなくてはならない。老舗ファッションブランドの創造性ではなく、その権威のみに張りまわされる『ハウス・オブ・グッチ』の登場人物たちの狂態は、ある意味で私たち自身の姿であるといえる。

『コーダ あいのうた』©︎2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

 アメリカ映画の大きな動きとしては、ろう者の俳優が当事者の役柄を演じた『コーダ あいのうた』がアカデミー賞作品賞を獲得したことが大きかった。「当事者でない者を演じてこそ俳優の仕事だ」と主張する人もいるが、それはこれまでさまざまなマイノリティに属する俳優が、不当に映画界から排除されてきたという現実や歴史を知らない、稚拙な意見である。

『私ときどきレッサーパンダ』©︎2022 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

 『コーダ あいのうた』のキャスティングも素晴らしいが、ピクサー・アニメーション・スタジオで、初めて女性スタッフたちが中心となって「リーダーチーム」を組み、カナダに住む移民の少女を描いた『私ときどきレッサーパンダ』が傑作となったことを思えば、当事者による作品づくりが、どれだけ映画を豊かにするのかということが分かるはずだ。

■公開・配信情報
Netflix映画『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』
一部劇場にて公開中
Netflixにて配信中
公式サイト:pinocchio-jp.com

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