小栗旬、『鎌倉殿の13人』ラストインタビュー 「大河ドラマの主演はまたいつかやりたい」

 ついに12月18日に最終回を迎えるNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。歴史の偉人を描く大河ドラマのほんとんどは、主人公が周囲から愛される人物として、あるいは何かの頂点に上り詰めた人物として描かれてきた。しかし、本作の主人公・北条義時は、物語が進めば進むほど、目から光が消え、修羅の道に突き進む“ダークヒーロー”へと変貌していった。第1回とは別人のようになった義時を小栗旬はどんな思いで演じていたのか。クランクアップ後、本作にかけた思い、印象的だったシーンなどについて、じっくりと話を聞いた。

脚本家・三谷幸喜の真髄がここに 『鎌倉殿の13人』特集

作品のタイトル、および主演・小栗旬が発表されたのは2020年の1月8日。歴代の大河ドラマの中でも人気作である『新選組!』『真田丸…

面白いと思ってもらえた理由は物語の力

ーークランクアップの瞬間はどういった気持ちだったのでしょうか?

小栗旬(以下、小栗):今まで経験してきたアップとはまたちょっと違う感じでしたかね。まだまだ続けていたいという気持ちももちろんあったし、それと同時にやっと終わったんだなとホッとする気持ちもあり。一言では言い難い心境でした。ただ、本当に納得のいく終わり方をさせてもらって、引きずるような感覚もなく終われたので。スパッと切り替わったという感じです。

ーー物語の前半と後半で物語の内容だけでなく共演者の方々も大きく様変わりしていきましたが、現場の雰囲気に変化はありましたか?

小栗:基本的に変わっていない感じはするんですが、ただ前半ぐらいまでは僕が全体的に年下だったんですよね。後半ぐらいから急に僕がお兄さんにならなければいけなくなって。年下でいられた時って、楽ちんなんですよね。先輩方、それこそ大御所の方がいらっしゃる環境の中でも、現場の在り方とかそういうものに気を遣わなくても済むような感じだったんですけど。後半に若い人たちが入ってくると、どうしても背負わなければいけないものがあって。できる限り環境をよくしてあげたいなと思いながら過ごしていました。そんなことに気を向けることも、たぶん自分が好きでやってることなので。

ーー座長として背負うものは大きいですよね。

小栗:でも、1人で作ってるわけじゃないので。どうしても主役をやるとそういうふうに言われますけど、結局は現場を作っているのってどちらかというとスタッフの皆さんなんです。間違いなく今回で言えばチーフ演出の吉田照幸監督が作る現場の空気が、そのまま撮影以外の場所でも浸透していて、風通しがよかった。変な緊張感もなければ、それぞれが意見できる環境があって。僕が自分から率先して何かをしないとまずいと思うようなことは一度もなく、僕は楽しくいさせてもらったという感じです。

ーー撮影を振り返って、どんな部分が成長したと感じましたか?

小栗:自分としては特にないですね。俳優としては1年5カ月、48回をかけて若い時の義時から晩年の義時までを演じさせていただいて、次から作品に臨む時は事前にこのぐらいまで深掘りしていかないと役を演じてはいけないと感じるようになりました。これまで演じてきた役も同じように臨んでいたつもりではいるんですけど、義時は回を重ねれば重ねるほど自分の中での選択肢というか、なぜこの台詞をここでいうことになったのかを考える時間が多くて。だからこそ、自分の役やほかのキャストのみなさんの役を通して、視聴者の方々に楽しんでもらえる作品になったという気はしているんですけど。通常の作品も、初日の段階でこれぐらいの自分でいなきゃいけないんだろうなと痛感しました。それを知ることができただけでも、今後、俳優として次に参加する作品にもう少しグラデーションをつけることができるようになったんじゃないかと思います。

ーー役への向き合い方で変化した部分はあったんでしょうか?

小栗:この義時に関しては、後半は台本をそんなに読まなくても場面がなんとなく思い浮かぶし。それを自分という器を使って北条義時になっていけばいい、そこにいればいいという感覚になっていったのは一つの自信というか。演じるということを超えて、人間を表現するということをするためには、僕は不器用なので1年5カ月を使わなきゃいけないんだとは感じましたけどね。

ーークランクアップ後、脚本の三谷幸喜さんと何かやりとりはありましたか?

小栗:終わった次の日に「全部終わりました。やりきってきました」とメールしました。三谷さんからは「ご苦労様でした」と。お互い1通ずつという感じです。この撮影期間中、三谷さんから「あそこのシーン最高でした」とか「あそこの表情が素晴らしかったです」と、時々メールをもらったりはしていたんですけど。最終日の前日に、小池栄子ちゃんと僕たち2人しか体験しない状態だねなんて言ってたんです。2人しか撮影が残っていなかったのでものすごくソワソワしてしまって。栄子ちゃんと「ちゃんと眠れてますか?」みたいなメールのやり取りをしていたんですけど、その流れで三谷さんに「僕、眠れません」ってメールを送ったら、三谷さんから「安心してやってください。前日に言うことじゃないかもしれないけど、小栗さんはもう完璧な義時だったから、安心して明日も迎えてください」とお返事をいただいて。「素敵なメッセージですね」って送ったら、「寝起きにしてはなかなか気の利いたこと書いたでしょ」って返ってきました(笑)。

ーー今回、改めて感じた三谷脚本の面白さを教えてください。

小栗:全48回を通しても、ここまで説明台詞が少なくて済んでる脚本はなかなかないと思っています。そこが三谷さんの優れている部分です。起きている物事と、それぞれの人物が言うセリフによって世界観が見えてくる脚本を書かれている。それでいて、1人が長台詞を喋るというシーンもなかなかなく、台詞として感情にそぐわないということはなくて。そこは俳優としてありがたいことだと思いました。三谷さんは作品が転がり始めて、実際にキャラクターが演じられるのを見てからの方が脚本作りが捗る方なんだろうなとは感じました。最終回をああいった形で書いてくれたこともすごいですし。大河ドラマをこよなく愛している方というのは伝わってきましたね。三谷幸喜さんの脚本で大河ドラマができたということが、自分にとってはありがたいことだと思っています。

ーー『鎌倉殿の13人』は歴史が好きな方はもちろん、大河ドラマを観るのが初めてという方も含めて、幅広い人たちが熱狂した作品でした。小栗さんから見た、これだけ盛り上がる作品になった要因と、いま日本のドラマが低調だと言われている中で今後の作品への希望が得られていたら教えてください。

小栗:視聴者のみなさんに『鎌倉殿の13人』が面白いと思ってもらえた理由は、物語の力だと思います。自分たちが観ても面白いなと思いますし、間違いなくそこがこの作品においてお客さんたちを惹きつけていた要因だと思います。今後のドラマへの希望で言うと、物語の力を信じるしかないんじゃないかなと。下手な鉄砲数撃ちゃ当たるみたいなことになっている場合がなかなか厳しいなと思っていますけど。

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