『エルピス』と現実の震えるような符号 岡部たかし演じる村井の言葉が再び甦る

岡部たかしが魅せる、中年男の堕落と誇りと反骨精神

 そんな息を呑むような展開を見せる『エルピス』だが、ヒューマンドラマとしても滋味が増している。キーマンは、やはり村井だ。プロデューサーの名越(近藤公園)が反対する中、目撃者の元妻の証言映像を放送。世間を大きく騒がせるが、その責任を負う形で関連子会社へ出向となる。

 初登場時はセクハラ・パワハラ上等の嫌われ者だったが、今ではすっかり視聴者の共感と支持を集めている村井。それは、村井が出世街道から外れ、やりがいのない仕事にスポイルされてしまっているように見えながらも、奥底にはジャーナリストとしての信念や、自分を認めない組織に一矢報いたい野心を抱えていて、口も態度も悪いが、その反面、浅川の些細な変化も見逃さない洞察力を持った男だからだろう。いろんな矛盾を抱えながらも、誇りと反骨精神は売り渡さない。そんな人間味に、つい胸を熱くさせられてしまう。

 名場面と高い評価を受けた第6話のカラオケシーンで、村井が歌ったのは尾崎豊の「卒業」。1965年生まれの尾崎は生きていたら、2018年時点では53歳になる。51歳の村井からすると、代弁者のような存在だろうか。尾崎が「卒業」を発表したのは19歳のときだから、村井はちょうど高校生の頃にこの曲に出会い、この曲と共に時に怒り、時に叫び、時に暴れながら、中年になったのかもしれない。

 ジャーナリストとしての情熱を失いかけていた村井にとって、あの証言映像を電波に乗せることは校舎の窓ガラスを割るようなものだった。そう想像するだけで、なんだか目頭が熱くなる。そして、岸本と違い、もうなりふり構わず走り出せるだけの情熱が自分にはないことに気づく姿がやるせなくて胸締めつけられる。

 村井を演じる岡部たかしと言えば、岸田國士戯曲賞作家・山内ケンジの主宰するプロデュースユニット・城山羊の会での芝居が印象的だ。毒と艶と俗っぽさがないまぜになったような中年像に、何度も魅了されてきた。映像作品も多数出演しているが、『あなたのブツが、ここに』(NHK総合)に続き、今年は躍進の1年となったと言えるだろう。

 こういういい俳優にいい役を与える作品は、例外なくいいドラマだ。そんな黄金のルールを『エルピス』は証明している。

■放送情報
『エルピスー希望、あるいは災いー』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00~放送
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、三浦貴大、近藤公園、池津祥子、梶原善、片岡正二郎、山路和弘、岡部たかし、六角精児、筒井真理子、鈴木亮平ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁ほか
音楽:大友良英
プロデュース:佐野亜裕美(カンテレ)
制作協力:ギークピクチュアズ、ギークサイト
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/elpis/
公式Twitter:@elpis_ktv

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