山本耕史、三浦義村として“裏切り”の心苦しさはなかった? 『鎌倉殿の13人』撮影秘話

 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』がついに終わりを迎える。物語の中盤に差し掛かる頃、脚本を手掛ける三谷幸喜がインタビューで語ったのが「ラスボスは三浦義村」という言葉。その言葉どおり、物語が終盤に差し掛かるにつれて、主人公・北条義時(小栗旬)にとって、三浦義村の存在は幼なじみ/親友から違う何かになろうとしている。各登場人物が大きく変化していく中でもっとも“変化しなかった”人物である三浦義村を山本耕史はどう演じていたのか。

脚本家・三谷幸喜の真髄がここに 『鎌倉殿の13人』特集

作品のタイトル、および主演・小栗旬が発表されたのは2020年の1月8日。歴代の大河ドラマの中でも人気作である『新選組!』『真田丸…

「義村は一貫して何も変わらない」

――山本さんは三谷幸喜さんが脚本を担当をしている大河ドラマ『新選組!』(2004年)、『真田丸』(2016年)、『鎌倉殿の13人』(2022年)の3作品に出演されています。

山本耕史(以下、山本):3作の中で、頭から最後まで出ているのが『新選組!』と『鎌倉殿の13人』になりますが、実はどちらも大河ドラマの中で人生を終えていないんですよ。大河ドラマは、いろいろな人が参加しては、去っていくので、ワンシーズンで花を咲かせて、パッと散っていくというのが、大河の気持ちよさでもあって。だから、今回はそれがなかったんですよね。土方(歳三)もなかったんですが、すごく幸せなことに続編(『正月時代劇~新選組!!土方歳三 最期の一日』)があったので、自分の中で全うしてその役を終えられたんですけど、この義村に関しては、終わった感じがあるかというとないんです。この先も義村は生きていますから、僕の中ではまだ生き続けている役です。

――本作で感じた三谷幸喜さんの大河の魅力、今までよりも進化したと感じる部分を教えてください。

山本:大河という世界の中で、やっぱり腕に磨きが確実にかかっていますよ。スピード感、それからあえて飛ばす部分の切れ味。例えば、『真田丸』では関ヶ原(の戦い)を描かないとか。普通は表舞台を絶対に描くところで、その時に彼らは何をやっていたんだろうという部分を非常に面白く描く。そこが三谷さんらしいところでもあるんですけど。良くも悪くも、視聴者の期待を裏切っていく斬新さは、三谷さんしか僕は見たことがないかな。普通だったら、(源)義経が五条大橋に出てきて橋の上に立つみたいな、武蔵坊(弁慶)が立ったまま死ぬ場面が当たり前に描かれていたけど、それを描かないという面白さがあった。『新選組!』の時は、基本的に出来事を全部描いていると思うんですけど、青春群像な感じがしたので。『真田丸』に関しては、真田信繁が出世していく物語で。今回も出世は出世なんだけど、時代に飲み込まれ、自分の真意をねじ曲げながらも、北条のために身を粉にして、命を懸けて生き抜くという鎌倉時代の義時、というのはまたテーマが違いますし。『真田丸』では教科書を見ているようなシーンもありますけど、それが今回の『鎌倉殿の13人』は内側から紐解いて見せたような。そこが斬新で磨きがかかっていたんじゃないかなと思いますよね。三谷さんらしいコメディの部分も織り交ぜながらで、素晴らしかったと思います。

――コメディの部分というところでは、かなりシビアな場面にも笑いを持ってくるのはすごいですよね。

山本:おそらく三谷さんにとっては、シビアなシーンこそ、もってこいな瞬間なんだと思います。シリアスなところでも、三谷さんはずっとは緊張させないし、緊張させるところは、そんなところでさせ続けるんだ、みたいな。八重(新垣結衣)さんが亡くなるときに、「これは、僕は上半身脱ぐ必要がありますか?」と一応聞いたんですよ。だって、川に入るんだから、どっちかと言ったら袴を脱ぐか、捲り上げるかですよね。上は濡れないんだから。そうしたら、「いや、観ている人の視線を1回こっちにごまかしたいんだ」と。だから、あれは三谷さんの見事な計算で。重たくなりすぎるシーンなので、義村の裸体で気を逸したいというので、すごいなと思って。そこも計算できているんだと思いましたね。この間、第42回で八田(知家)(市原隼人)が脱いで、僕が脱いだシーンで、「あれは山本耕史がアドリブで脱いだんだろうか」みたいなことを視聴者から言われているらしくて。僕の方が台本通りですからね。台本に、そもそも「なぜか義村が裸になっている」と書いてあって(笑)。市原(隼人)くんの方が書いてなかったんですよ。だから、どっちかというと市原くんのアドリブなんです。

――山本さんが主演の小栗旬さんを近くで見てきて感じた役者としての凄みや、座長としての印象を聞かせてください。

山本:大河ドラマの主役は本当に大変なんですよ。ご想像の通りというか、1年半ぐらい同じ役で、同じペースで撮っていて。精神的にも体力的にも1番大変な立場であることは間違いない。最初は目上の方が多い中で、旬くんは先輩たちにも気遣いができるし、それでいて先輩たちがいなくなっていくのを見届けて、新しいキャストの同世代だったり、後輩たちが入ってくるのにもきっちりと目を向けてあげて。「そんなところまでしてあげてるんだ!?」ということが旬くんにはありますから。そういう人間なんだろうな。まさに最初の頃の義時みたいな男ですよ。一方で後半の義時のような、ああいった強さも持っていますから、彼はどこかタフですよね。そんな精神力と肉体を持っている印象ですけどね。

――クランクアップ後には何か声をかけられたりしましたか?

山本:もちろん! 「お疲れ様!」というやりとりもしましたし、今後はまだ鎌倉殿のイベントとかでも会ったりするから。どこかお互い終わったようで終わっていないところもあって。今回は非常にいい距離感でやれた作品でしたよね。やっぱり義村と義時は近いようで、お互い腹の底を探りあっている部分も否めない関係性だったんですけど。僕の方が歳は上なんですが、小栗旬と山本耕史という関係性でも、お互い思うことはあるんだろうけど、あまりそんなに語らなくてもいいよね、みたいなところもあって。だけど、通じ合っているところは通じ合っているし。まさにそんな関係に近づいたのか、今までもそうだったのか。大河ドラマって、1年半やっているから、自分が言っているのか義村が言っているのか、本当に分からなくなってくる時があるんですよね。でも、義時(という役)は、旬くんのいろいろな部分が見えたような気がします。優しくて、夢に溢れている小栗旬と、そろそろ40歳でベテランの方にもなりつつある、真ん中にいる立場として、厳しくいなきゃという。後半の義時みたいな厳しさも見えた気がするし。だから、本当に旬くんのいろいろな人間性が見られた大河ドラマだったんじゃないかなと思います。

――ここまで義時は紆余曲折があって変化をしてきましたけど、義村はどうだったと山本さんは思っていますか?

山本:台本を読み進めていくにつれて、周りも僕らも義村は「本当にひどい」と思っていたんですよ。後半に義時を裏切るような立場になると、視聴者からも「義村、腹立つ」と思われるのかなと思っていたんですけど、よくよく考えると、義村は最初から言っていることが変わらないなと思っていて。北条が頼朝(大泉洋)を匿う時にも、「首はねちまえよ」みたいなことをすぐ言うし、「あいつは疫病神だ」とかも言っているし。いち早く義時に「お前、頼朝に似てきたぞ」とか、一貫してるんですよね。後半に向けては、相手が誰であろうと出る杭を打つ、というところは、本当に全く変わらない男だと思っていて。後半は義時に対して、視聴者は「ほかの人をいじめないで」という流れになっていく。そこで義村が義時を裏切ったら、「よくやってくれた」という方に回る。つまりは義時が変わっていったからこそ、義村はそのままというのが際立った。衣装は変わりましたけど、義村は一貫して何も変わらない。普通は老けメイクをしますが、そこも変えていないんですね。このドラマのエンターテインメントという中で際立たせるために、そういうところに対しては僕が提案して、そのままでいたんです。彼の思想、思惑、そして容姿、全て第1回から統一しているというところは、非常に良かったかなと思っています。

―― 何度も見返していろいろな解釈ができるという感じですね。

山本:第44回では、第1回から見返さなきゃいけないような出来事が出てきました。(北条)泰時と義時が、義村の腹の中を探りにくるんですね。義村はそんなわけないだろうととぼけるわけですよ。その時に、僕が襟を触るという。ここは二転三転したんですけど、最初にできた台本にはたしか襟を触るとは書かれていなかったのですが、義村は口にする言葉と本心が違う時は襟を触る、それで義時が彼の嘘を見抜くと。第1回から観ていると、実はそれを結構やっているんですよね。だから、そこを見返す人がきっと出てくるんじゃないかなと思います。

――それは三谷さんが山本さんのその仕草を見ていて、書き加えちゃうみたいな感じだったんですか?

山本:三谷さんの最初の台本には僕がやったことのない仕草が書かれていたんですけど、どうせならやったことがあるようなシチュエーションでどうにかならないかという話になって、「義村さんはここを触るのが印象的ですよね」みたいな話になり――。もちろん、自分でも触る自覚はあるんですけど、果たしてどんなシーンでやっていたのかを考えると、自分でも見返さないとどこでやっていたか分からないなと。でも、これが見事にそういう時に触っているんですよ。そういった感情になったときに、僕はその仕草をするんですよね。後付になるので、これは本当は言わない方がかっこいいんだろうけど、成立したというシーンです。

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