片山は『道草』を撮影する上で、青野と田中とどんな話をしたのだろうか。片山は、「僕はやっぱり人を撮りたい。映画の中で生きている人を撮りたいから、その映画のためにお芝居をされることをすごく嫌います。台本のためじゃなくて、その役の人のためにただ生きて欲しいし、それを映画として成立させるのが僕の仕事だと思っています。そういう意味では田中さんは、私はこう思ったのでこうしましたとしっかりと言葉にできる人だなっていう印象もあって、だから何でこうしたんですかと聞くと言葉として話してくれるので、ああそうかと思えて、なるほどなと思って、それは違うと思えば、僕は全然違うとは言わないですけど、その考え方もあるけど、もうちょっと違う考え方をするには田中さんにはどんな言葉が必要なのか、それとも感覚的に演出したらいいのかとか」と、田中の印象について語る。

　さらに、「あとは時間ですね。どういう時間経過があって、ここに来ていたのかを改めて話し合うというか、歩いてきたのか、走ってきたのかとかそういう話をしていくと、その役の歴史が生まれていきます。普段生きていたら意識しなくとも歴史がふんだんにありますけど、役の場合はやはりどうしても歴史が短いし足りないんですよね。役者は演じる上で気持ち（感情）を埋める作業はしますけど、役の背景的な時間を埋める作業する人があんまりいなように思います。その点、田中さんは時間を埋める作業をちゃんとしてくる方だったので、それを突き詰めていくと、そこにいざるを得ない状況になっていくように思います。そして田中真琴という人しか持ち得ない感覚というものがあって、その感覚の中でどうサチという役と照らし合わせていくかというか。それを行なっていく作業はとても楽しかったですね」と、田中との役作りの過程を振り返った。

　青野については、「青野とはそれこそたくさん話をしましたけれど、道雄というキャラクターが僕としては青野に似ていたと思うけど、ええかっこしいみたいなところも多分本人のパーソナルな部分としてあると思います。そして自分に自信がないところと、自分に自信がありたいところの間ですごく戦っていてどちらかを切り捨てられない人だと思うので、演出としては少しパワープレイもしましたし、ちょっと青野を傷つけるようなことをしてしまったかもしれないけど、彼の中での正解をつんでいくという作業をたくさんしました。そうやって一つ一つ話し合いながら進めたなっていう感覚です」と、丁寧に会話をしたことを明かした。

　そんな片山の演出について、田中は「やっぱり監督が、役者もされている方なので分かりやすかったです。何を描こうとしているか、片山さんの中でどんなサチをイメージをしているのかなど、伝え方がとても分かりやすかったです。直接的に答えを伝えるのではなく遠回しな言い方で教えてくださったり、こういう時系列で今からバイトに行くところだったから、こんな気持ちだよね、みたいに積み上げていってくれたから、私なりの答えで、それでなおかつ監督のイメージに合うサチになっていたところが、すごく役者さんならではの視点だなと思いました。あと感情を大切にしたい部分とか何度も出来ないようなシーンをすごく大切にしてくださったのが印象的でした。監督だけやっている人だと、そこを頑張ってやってくれって言われてしまうようなこともあるし、もちろんそれもプロだとは思うんですけど、そうではない映像の新鮮味みたいなのも大切にしてもらえたのは、やっぱりありがたいなってすごく思いました」と語った。

■公開情報
『道草』
シモキタ – エキマエ – シネマ『K2』ほかにて全国順次公開中
監督、脚本：片山享
出演：青野竜平、田中真琴、Tao、谷仲恵輔、山本晃大、大宮将司、入江崇史
プロデューサー：大松高
撮影：深谷祐次
照明：松島翔平
録音：坂元就、杉本崇志
制作：山田夏子
監督補佐：安楽涼
助監督：風間英春
ヘアメイク：谷口里奈、富田貴代
スタイリスト：磯﨑亜矢子、青山新
カラリスト：深谷祐次
整音：坂元就
絵画提供：大前光平
美術協力：sinden inc.、大門佑輔
宣伝デザイン： 櫻井孝佑
制作プロダクション：ハナ映像社
配給、宣伝協力：夢何生
企画、製作：ハイエンド合同会社
2022年／日本／122分／アメリカンビスタ／カラー／5.1ch
公式サイト：https://www.highendzworks.com/michikusa