硬派な男女バディの活躍を見逃すな! “今のアメリカ”が垣間見える『FBI:特別捜査班』

 海外ドラマのなかでも、事件捜査ものは王道で人気のジャンルの1つだ。これまでも『クリミナル・マインド』や『CSI』『NCIS』など、多くの名作シリーズが生み出されてきた。そんななか、現在注目を集めているのが、アメリカ3大ネットワークの1つ、CBSで2018年から放送されている『FBI:特別捜査班』だ。プロデューサーを務めるのは、『LAW & ORDER』シリーズや『シカゴ』シリーズなど、数多くのヒット作を手がけてきたディック・ウルフ。本国アメリカでは、シーズン1は新作ドラマのなかでNo.1の視聴者数を獲得し、地上波のドラマでは異例の2シーズン先までの更新が発表された。2020年から2022年には、大人気の長寿シリーズ『NCIS』(2003年〜)に次いで全米第2位の視聴者数を獲得。2022年12月現在はシーズン5が放送中で、別格の存在感を放っている。

 日本では2020年4月からWOWOWでシーズン1の放送が開始され、大人気となっている。2022年12月17日からは待望のシーズン4を放送。それにあわせてWOWOWオンデマンドでは、シーズン1〜3も一挙配信が開始となる。今回は、そんな注目の『FBI:特別捜査班』の魅力を紐解いていきたい。

さまざまなバックグラウンドを持つ魅力的なキャラクターたち

『FBI:特別捜査班』© MMXIX CBS Broadcasting, Inc. All Rights Reserved.

 『FBI』の中心となるのは、特別捜査官のマギー・ベル(ミッシー・ペリグリム)とオマル・アドム・“OA”・ジダン(ジーコ・ザキ)のコンビだ。男女バディは『BONESー骨は語るー』(2005年〜2017年)をはじめ、『メンタリスト』(2008年〜2015年)や『キャッスル 〜ミステリー作家は事件がお好き (ミステリー作家のNY事件簿)』(2009年〜2016年)など、近年では事件捜査ものの定番になった。しかしマギーとOAのコンビは一味違う。ジャーナリストの夫を亡くした過去を持つマギーと、元軍人でアラブ系のOA。彼らはそれぞれにつらい過去や偏見にさらされる現実を抱え、個人的な問題と葛藤しながら事件の捜査にあたる。マギーは事件で夫を失った妻に共感して暴走してしまったり、OAはイスラム教徒のテロリストへの捜査で、FBIのやり方に反発するなど、個人的な感情が先に立ってしまう場合もある。決してヒーローではない、血の通った人間味のあるキャラクターづくりが魅力的だ。

『FBI3:特別捜査班』© MMXXII CBS Broadcasting Inc. All Rights Reserved.

 2人のほかにも、アルコール依存症を乗り越え、白血病の息子を支えるチームリーダーのジュバル(ジェレミー・シスト)やシーズン3から登場した元NY市警のタフな捜査官ティファニー(キャサリン・レニー・ケイン)、金融業界出身のスコーラ(ジョン・ボイド)など、チームのメンバーも個性派ぞろいだ。こうしたドラマでは珍しいほど、人種的マイノリティや女性のキャラクターが多いことも目を引く。彼らはときにぶつかり合いながら、お互いの違いや相手の特性を理解し、強みを活かして捜査を進める。それぞれの人間臭さがドラマに真実味を与え、好きにならずにいられないキャラクターばかりなのだ。チーム内での安易な恋愛展開がないのも好感が持てる。

アメリカの社会情勢を反映した事件

『FBI2:特別捜査班』© MMXIX CBS Broadcasting Inc. All Rights Reserved.

 本シリーズは、現在のアメリカの社会情勢を映し出す事件の数々も見どころの1つだ。白人至上主義者によるヘイトクライムや、過激派による大規模なテロ、移民の人身売買、インサイダー取引などの事件を、さまざまなバックグラウンドを持つ捜査官たちが自分事として引き受けながら捜査していく。あるエピソードでは、黒人が被害者で容疑者が白人の場合、逆のパターンよりも捜査が慎重に行われるのではないかという、構造的な差別にも触れられている。それぞれのエピソードで描かれる犯罪の傾向も現実とリンクするような内容になっており、時事性が高いのだ。テロや人種差別が絡む事件では、イスラム教徒であるOAや黒人のティファニーは、自身のアイデンティティと板挟みになることも少なくない。それでも彼らは葛藤しながら、真実と正義を求めて邁進していく。先に触れたキャラクターの多様性も、現代アメリカの情勢を反映した事件とその捜査に深みを与えている。

 また本シリーズは、テロや誘拐、連続殺人、広域犯罪など、実際にFBIが捜査を担当する事件をすべて網羅している。これまでどれか1つに特化したチームが描かれることの多かった事件捜査ものでは、これも新しい試みだといえるだろう。

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