『ジェラール・フィリップ 最後の冬』監督が語る映画史の“もしも” 50年代を回顧する意義

大衆のために舞台に立ち続けたジェラール・フィリップ

――フィリップはファシストの父親を持ちながら、パリ解放の中心的な役割を果たしていました。彼の政治的なスタンスをどのように見ていますか?

ジュディ:ジェラールの父親はファシストでしたが、彼は最後まで父のことを愛していました。ジェラールは自分の心に忠実だったからこそ、両義性を持ちあわせている人物だったのだと思います。父親を愛しながら、同時に世界の平和も愛し、それを実際に行動にも移していた。例えば、彼は東ヨーロッパに映画のプロモーションに出かける一方で、アメリカのことも否定していませんでした。

――左翼か右翼かという立ち位置よりも、自分の信念に忠実な人だったのですね。

ジュディ:彼の人間愛を表す一番素晴らしいエピソードは、彼がフランス国立民衆劇場のほとんど専属のような俳優として、舞台に立ち続けたことです。当時の国立劇場は役者に支払われる給料がとても低く、彼ほどのキャリアがあれば、もっとブルジョワ向けの劇場に立つこともできました。それでも、大衆のために彼は自分を投げ出して演劇活動をしていたわけです。

――今を生きる人に向けてフィリップの生き様をどのように届けたいですか?

ジュディ:1960年代以降、ヌーヴェルヴァーグをはじめ芸術界でいくつも大きなことが起きて、それ以前の歴史が一掃されてしまったところがあります。ジェラールは演劇のモダンさを観客に伝えることに専心していましたが、映画に関して彼にはあまり時間がありませんでした。この作品を通して、ジェラールの人間性を知って、彼が残した作品に興味を持ってくれたら嬉しいです。そして、ジェラール・フィリップという存在が、現代に不死鳥のように蘇ることを期待しています。

■公開情報
『ジェラール・フィリップ 最後の冬』
全国公開中
原作:ジェローム・ガルサン『ジェラール・フィリップ 最後の冬』(中央公論新社)
監督:パトリック・ジュディ
出演:ジェラール・フィリップ
吹替ナレーション:本木雅弘
配給:セテラ・インターナショナル
2022年/フランス/66分/パートカラー/ステレオ/ビスタ
©Temps noir 2022
公式サイト : https://www.cetera.co.jp/gerardphilipe

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