ストップモーションが日本アニメ市場で放つ新鮮な輝き “物としての実在感”が魅力に

動く美術品としてのストップモーション

 ドローイング・アニメーションと比較した時、ストップモーション・アニメーションにはどんな特徴があると言えるか。それは本物であることだ。人形が映っているとすれば、それは本物の人形がカメラの前にあることを意味する点が、絵のアニメーションと異なる。

 一言でいえば、「物の実在感」だ。絵のアニメーションはどれだけリアルに描いてもそれは疑似リアルであるが、ストップモーション・アニメーションは、本物の奥行きを持った空間で、本物の照明を本当に存在する物にあてて撮影可能であるということから生まれるリアリティがドローイングのアニメーションとは決定的に異なる。

 それ故に、撮影対象になる物体の素材選びは重要だ。『ごん-GON, THE LITTLE FOX-』などで知られるストップモーション・アニメーション作家の八代健志氏は、「実在する物の素材感や実在感こそが、ストップモーションにしかない魅力だと思っています。被写体は“動く美術品”であるべきだと思いながら制作しています」と語っている(※1)。

 動かしやすく、形を自在に作りやすい素材として粘土や、羊毛フェルトなどがよく選ばれるが、中には木彫りの人形を使用する作品もある。『ごん-GON, THE LITTLE FOX-』は有名な児童文学『ごんぎつね』を原作とする作品で、この作品で使用された素材は木である。木彫りのやや無骨な存在感が作品全体にユニークな印象を与えていて、木で作られた物だと感じられることが作品をより魅力的に見せることに貢献している。

 ストップモーションは、被写体が物としてバレた方が面白いと言える。アメリカの『コララインとボタンの魔女』という作品は、主人公が目がボタンの者たちの世界に迷い込むという筋書きの作品だ。この「目がボタンになる」という状況をどう表現したかというと、実際に服に使われるボタンを人形の目として使った。この作品の場合、服のボタンという身近な素材が使われていることで、自分の見知った物に生命が宿ったかのような感覚を与えることに成功しているのだ。

 日本で近年、人気の『モルカー』のかわいさも、物としての実在感が貢献している。『モルカー』は羊毛フェルトで作られているのだが、この素材のやわらかくフワッとした印象がモルカーというキャラクター性に絶妙にマッチしている。もし、手描きアニメでフェルトのふわりとしたかわいささを表現しようと思ったら、熟練のアニメーターでも苦戦するのではないか。

 『モルカー』の生みの親、見里朝希は卒業制作『マイリトルゴート』においてはかわいい印象のフェルト素材を逆手にとってホラーテイストの物語を展開している。これも素材の特徴を逆転させて活用した例と言える。

 Netflix配信の『リラックマ』シリーズは、サンエックスが展開するキャラクターをアニメーション化した作品だ。ファンにはよく知られていることだが、リラックマは公式設定として本物のクマではない。あれは着ぐるみのクマであり、中に誰が入っているのは不明だで、実際に背中にファスナーが着いているのも公式設定だ。(※2)したがって、リラックマの体表は本物のクマの質感ではなく、着ぐるみの質感でなければならない。だからこそ、本作は絵のアニメーションよりもストップモーションの方が面白くなる。絵で描くよりも人形を撮影した方が着ぐるみの質感を強調できるからだ。

日本の商業アニメにストップモーションは根付くか

 日本の商業アニメーションシーンは、前述した通り絵のアニメが支配的だが、そこに楔を打ち込む作品が登場しているのは、日本のアニメ産業全体にとっても良い刺激になるだろう。

 『モルカー』や『リラックマ』はショート作品のシリーズだが、日本でも長編映画の分野でストップモーション・アニメーション作品は生まれ始めた。独学でストップモーションを学んだ堀貴秀による長編映画『JUNK HEAD』が2021年に国内で公開され、スマッシュヒットを記録したのも記憶に新しい。数年前には、中村誠監督の『ちえりとチェリー』も公開され、一部で大きく評価された。

 ストップモーションは古い技術だが、今、日本市場では新鮮な輝きを放っている。アニメ大国日本の市場にストップモーションが根付く日が来れば、その時日本は今以上に豊かなアニメーション市場を持つようになるのではないかと筆者は期待している。

参照

※1. 『月刊放送ジャーナル』(放送ジャーナル社)2017年3月号、P39より
※2. https://www.san-x.co.jp/rilakkuma/profile/

■放送情報
『PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL』
テレビ東京「イニミニマニモ」内にて、毎週土曜7:00〜放送
原案・スーパーバイザー:見里朝希
監督:小野ハナ(UchuPeople)
アニメーター:小川翔大、高野真、三宅敦子、垣内由加利、当真一茂、阿部靖子、小西茉莉花
美術:UchuPeople、アトリエKOCKA、パンタグラフ、スタジオビンゴ
音楽:小鷲翔太
音響:小沼則義
©︎見里朝希/PUI PUI モルカーDS製作委員会
公式サイト:https://molcar-anime.com/
公式Twitter:https://twitter.com/molcar_anime
公式Instagram:https://www.instagram.com/molcar_anime/

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