ドラマの“王者”に帰還? 『PICU』『silent』など“描くべきこと”を示したフジテレビ

 つまりは“木22”の『silent』は、往年の“月9”のテイストを継承していると言ってもいいだろう。一方の“月9”はといえば、すっかりトレンディドラマから離れ職業ドラマの方面へ振り切ってかなり久しい。今期の『PICU 小児集中治療室』は、ヒューマンドラマ性を重視した医療ドラマに、僻地における医療課題、さらに中島みゆきの主題歌も相まって、『Dr.コトー診療所』などの名作との共通点を感じずにはいられない。どうやら“月9”と“木22”のポジションはこの20年で完璧に逆転したというわけか。

『PICU 小児集中治療室』©フジテレビ

 この『PICU』もまた、現実に存在する場所に重きを置いて物語が運ばれていく(第1話の際には少々トラブルも生じてしまったが)。札幌市の東区にある丘珠空港のすぐ横にある病院(これに関してはフィクションである)を舞台にし、広大な面積を有する北海道内の医療の課題を小児医療の面から描写していく。稚内や網走、函館から、緊急性を有する患者をいかにして運び、治療を行ない、そして彼らをいかにして元の街に帰らせてあげるのか。このような題材で実際の地名が登場することは、先述のトレンディドラマに見られる高揚感とは対照的に、ドラマ全体が描く問題をより現実的なものとして考えることの一助となる。

『エルピスー希望、あるいは災いー』©︎カンテレ

 月曜22時枠で放送されている『エルピスー希望、あるいは災いー』の場合は、架空の町で起きた事件と、その真相解明に挑む架空のテレビ局の者たちの奔走を描く。第1話の放送直後に大きな話題を集めたのは、エンドクレジットに出る参考文献の多さ。足利事件を中心とした実在の事件をモチーフにして、徹底的に冤罪と立ち向かう報道マンたちの、半ば贖罪ともとれる戦いの模様。確かにこれは、架空の舞台設定でなければ実現し得ないほどチャレンジングであり、“月9”と“木22”とは異なるアプローチでリアリティに寄与していくのである。

 リアルに近すぎることも遠すぎることも、テレビドラマの性質上は大きなハンデになりうる。ことにその物語に、現実世界について考えるテーマが込められていればなおさらである。配信サービスの全盛によって韓国ドラマや海外ドラマがスムーズに入ってくる時代のなかで日本のドラマが輝くためには、リアルと物語の距離の取り方とそのバランスの保ち方がひとつのカギとなる。それを巧みに実践している今期のフジテレビドラマは、いま日本のテレビドラマで“描けること”、あるいは“描くべきこと”を確かに示している。

■放送情報
『PICU 小児集中治療室』
フジテレビ系にて、毎週月曜21:00~21:54放送
出演:吉沢亮、木村文乃、安田顕、生田絵梨花、高杉真宙、菅野莉央、甲本雅裕、中尾明慶、高梨臨、菊地凛子、正名僕蔵、松尾諭、大竹しのぶほか
脚本:倉光泰子
演出:平野眞
プロデュース:金城綾香
医療監修:浮山越史(杏林大学病院)、渡邉佳子(杏林大学病院)
主題歌:中島みゆき「俱に」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)
音楽:眞鍋昭大
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/PICU/
公式Twitter:@PICU_cx
公式Instagram:@picu_cx

木曜劇場『silent』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送
出演:川口春奈、目黒蓮(Snow Man)、鈴鹿央士、桜田ひより、板垣李光人、夏帆、風間俊介、篠原涼子ほか
脚本:生方美久
演出:風間太樹
プロデュース:村瀬健
音楽:得田真裕
制作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/silent/
公式Twitter:https://twitter.com/silent_fujitv
公式Instagram:https://www.instagram.com/silent_fujitv/

『エルピスー希望、あるいは災いー』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00〜放送
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、三浦貴大、近藤公園、池津祥子、梶原善、片岡正二郎、山路和弘、岡部たかし、六角精児、筒井真理子、鈴木亮平ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁ほか
音楽:大友良英
プロデュース:佐野亜裕美(カンテレ)
制作協力:ギークピクチュアズ、ギークサイト
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/elpis/
公式Twitter:@elpis_ktv

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