鈴木亮平、『エルピス』で演じる“最低で最高な男” 斎藤は恵那にとって最大のトラップ?

 『エルピス-希望、あるいは災い-』(カンテレ・フジテレビ系)は容赦なく、私たちを試してくる。毎話痛いところを突いてくる。冤罪に国家ぐるみの不正の隠蔽、いじめに惰性がまかり通る職場まで……喉に引っ掛かってずっと取れない魚の小骨のように違和感や理不尽さにじわじわと侵食され息苦しくなってしまうことはあれ、事が起きているまさにその時、自身が渦中の人となった際に周囲の多くが長いものに巻かれている最中に自分だけ常に“正しく”、少なくとも自分の持つ“正義”にずっと忠実でいられるだろうか。

 そして、多くの場合、本当の敵は“敵の顔”をしていない。「敵はどこにいるかわからない」とは劇中の情報バラエティー番組『フライデーボンボン』のチーフプロデュサー村井(岡部たかし)の言葉だ。「もう飲み込めない」「正しいことがしたい」とついに番組冒頭に八頭尾山連続殺人事件の特集が放送されるよう画策したキャスターの恵那(長澤まさみ)でさえも抗えないのが元カレで報道局のエース記者・斎藤(鈴木亮平)だ。恵那は斎藤との路上キス写真を週刊誌にスクープされニュース番組を降板することになった一方で、彼はテレビ局の中でも“出世コース”まっしぐらで政権中枢の要人とも懇意な間柄を築いている。拓朗(眞栄田郷敦)の新入社員時代に指導担当だった繋がりもあり、最初は彼ら2人が冤罪疑惑の真相を追うのに協力的かに見えたが、ここのところどうも動きが怪しい。

 スーツの着こなしも完璧でスタイル抜群、笑顔が爽やかで言動に迷いはなく、自信を漲らせているけれども決して差し出がましいところがなく嫌味ったらしさも皆無の斎藤。「お前たち」と言われても、恵那も嫌な顔ひとつせず斎藤の前ではやけに従順だ。恵那は斎藤本人に“不誠実”“最低”という言葉を並べ立てていたものの、“最低で最高な男”というのは一部確かに存在してしまうのだ。

 仕事ができ、立ち回りもスマートで頼りになるしそつがない。一見したところは軽薄にも見えず、誰に対しても分け隔てなく接する。学歴で入社したボンクラ若手ディレクターの拓朗の突拍子もない依頼に耳を傾け、ランチに付き合うくらいには面倒見も良く、よくありがちな“自分は忙しいアピール”ばかりするようなところもない。一言一言が的確で無駄がなく、心掴まれてしまう。恵那が“守られている気がしてしまう”というのも無理はないのだ。

 各方面に“話のわかる人”だと思わせることができ、誰からも“敵”だと見なされるのを上手く免れることができる人。相手の警戒心の解除も巧みで、難なく“表の顔”と“裏の顔”を両立できてしまう人。だからズルいのだ。恵那が自分のことを最終的に拒まないことも、自分が恵那のことを手なずけられることも本人が一番よくわかっている。

 恵那自身も斎藤のあの眼差しからそれを感じ取ってはいるものの、見つめられると気持ちよくひれ伏したくなってしまう。あまりに見透かされすぎているから、一瞬で抵抗する気力を奪われてしまう。その方が楽で安全で束の間生温かさに包まれていられるから。あらゆる“庇護”の対象から抜け出したいと思っても、この人の元でだけはその瞬間“守られていたい”と思ってしまう。

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