『舞いあがれ!』を読み解く鍵は、凧、飛行機に株価? 安直な構造にはしない脚本への信頼
行く手に張り巡らされた生きづらさをかいくぐりながら、舞は空に、貴司は海にたどりつき、気持ちが上向いていく。久留美は久留美で父・佳晴(松尾諭)と自分を置いて出ていった母・久子(小牧芽美)と会う決意をし、五島から東大阪の帰りに福岡に立ち寄る。そこで、母がなぜ、出て行ってしまったのか聞くことになるのだが、ここでもまた子が幼な過ぎてわからなかった事情を大人になって受け止める流れになっている。
子供の頃にはまるでわからなかった母の、怪我をして傷ついてがんばらなくなった父に苛立つ気持ちを、久留美は少しわかるようになっている。祥子とめぐみ、久子と久留美と、確執があって遠く離れて会わずにいた母娘の再会のエピソードがかぶっているようにも感じるが、久留美のほうが岩倉家の問題よりもしんどそうである。
出ていった母の代わりに父を支える負荷を抱えてしまっていて、見ていて辛い。なにわバードマン編では由良(吉谷彩子)が身体の問題や怪我というアクシデントによって夢を叶えることのできないしんどさを背負っていたことを思い出す。あえて舞とその他の人たちとの差異という構造を狙っているのかもしれない。叶わない夢をもった人たちの分も舞が空を飛ぶというのは物語のひとつの王道ではあるが、主人公が恵まれ過ぎていないかという声もそろそろ出てきそうな懸念はある。
ただ、誰かがラッキー続きで、誰かがアンラッキーばかりという安直な構造では決してないとも思いたい。その理由はモチーフである。この世界に生きる者、誰もが上がったり下がったり波のなかにいることを可視化するのが、凧であり、飛行機であり、舞の兄・悠人(横山裕)がいつもチェックしている株価の表である。
とりわけ株価である。日本経済が不安定になっていく時代を舞台にしているからこその株というモチーフなのかなと思って見ていたが、株も上がり下がりの象徴なのだと気づいて、膝を打った。『舞いあがれ!』はきっと、下っていきそうなとき、頭を上げて、立て直していく人生の律動を描いているのではないか。これから航空学校編がはじまる舞に、彼女にも下降線もあるのではないかと予想を立てるのもどうかと思うが、おそらく谷にも出くわすだろう。まだまだ先は長いから。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
総合:午前8:00~8:15、(再放送)12:45~13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30~7:45、(再放送)11:00 ~11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK