『舞いあがれ!』に漂う不幸の気配 繰り返し描かれている同じ物語
『舞いあがれ!』(NHK総合)は、五島半島と東大阪を舞台に、ヒロインの岩倉舞(福原遥)が、旅客機のパイロットを目指す姿が描いた連続テレビ小説(以下、朝ドラ)だ。物語は1994年から始まり、1~3週では舞の幼少期が描かれ、4週以降は2000年代となり、大学生になった舞が人力飛行機サークル「なにわバードマン」で人力飛行機のパイロットとして奮闘する姿が描かれた。
どこか懐かしいのは1990~2000年代という近過去が舞台だからだろうか。メイン脚本家の桑原亮子は1980年生まれ。彼女にとっては10~20代を過ごした時代だが、当時の若者が抱えていた気分がにじみ出ていると、1976年生まれの筆者は感じる。それは具体的な事件や風俗を通してではなく、物語や各登場人物の描写に現れている。
本作は、幼少期の舞(浅田芭路)が原因不明の高熱に悩まされているところから始まる。舞は、家族から離れて祖母と五島列島で暮らすことで「失敗を恐れるあまり消極的になってしまう」性格を克服。自分の意思でばらもん凧を揚げて以降、原因不明の高熱は出なくなる。
おそらく「失敗したくない」という不安が「高熱」となって現れたのだろう。その後、舞は自分の意思を出せるようになり、東大阪に戻ってくるのだが、今度は周囲の人間が不幸に見舞われることになる。
舞の父親が経営する工場は経営が苦しくなっており、その影響で兄も私立の受験を諦めて、公立中学に行けと言われた。一方、友人の久留美ちゃん(大野さき)は「うさぎ殺し」と言われクラスの女子から仲間はずれにされていた。
暑い日に飼育係として世話をしていたうさぎを心配して、久留美が家に連れ帰ったら翌朝、死んでいたことが原因だ。舞が久留美を励まそうと家に行くと、彼女の父親が寝ていた。久留美の父親は実業団ラグビーの選手だったが、怪我をして会社を辞めていた。
突如、不幸のオンパレードとなった第3週だったが、舞の父親は新規事業を開拓し、兄の受験もできるようになる。久留美の父親も再就職し、不安の種はすべて解消されハッピーエンドに近い形で舞の幼少期は終わりを告げる。しかし、ここで現れた不幸の気配は、形を変えて再び現れる。