細川岳が『舞いあがれ!』で示す俳優としての誠実さ “実在感”へのこだわりが光る

 映画ファンにはお馴染み、あの『佐々木、イン、マイマイン』(2020年)の“佐々木”こと細川岳が、朝ドラ『舞いあがれ!』(NHK総合)に出演中だ。玉本淳というチャーミングなキャラクターを好演しているところであり、ヒロイン・舞(福原遥)が所属する「なにわバードマン」の一員としてチームの盛り上げ役を買って出ている。

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 細川が『舞いあがれ!』に登場したのは、大きくなった舞を演じる福原が姿を見せるのとほぼ時を同じくして、舞の“大学パート”が始まってすぐのこと。細川が演じる玉本淳は大学の人力飛行機サークル「なにわバードマン」の“プロペラ班”の一人であり、高杉真宙が演じる人力飛行機「スワン号」の設計担当・刈谷博文や、吉谷彩子が演じるパイロットの由良冬子たちとともに、本作におけるこの“大学パート”を盛り上げている。インパクト大なヒゲとパーマヘアがトレードマークの物腰柔らかな人物だ。“舞視点”で本作を観ている方にとって彼の存在は、非常にありがたかったのではないだろうか。大きくなったとはいえ、まだうまく自分のことを表現できない舞。そんな彼女のことを玉本らが、優しく迎え、たびたび見せる笑顔に癒やされる。

『舞いあがれ!』写真提供=NHK

 玉本を演じる細川といえば、ここ近年、メキメキと頭角を現している若手俳優の一人だ。先に触れているように、多くの方が彼のことを映画『佐々木、イン、マイマイン』で認知したことだろう。自ら企画を立案し、脚本にも参画。タイトルロールである“佐々木”を演じ、日本の映画界に衝撃を与えた。それは第33回東京国際映画祭でのワールドプレミア上映や、第42回ヨコハマ映画祭 審査員特別賞、おおさかシネマフェスティバル2021での日本映画新人男優賞受賞などに結実している。日本の映画界が彼の才能に気づいたのである。いや、彼が仲間たちとの共闘によって、自ら“見せつけた”のである。

『佐々木、イン、マイマイン』©︎「佐々木、イン、マイマイン」

 自らの活躍の場を作った細川は、それ以降、日本のインディペンデント映画シーンの俳優として中心的な存在となっていった。2021年公開の『愛うつつ』や『くもりのち晴れ』で主演を務め、この2022年は多様な愛のかたちを描いた『きみは愛せ』にて中心人物をシリアスに演じ、コミカルな恋愛群像劇である『階段の先には踊り場がある』では舞踊の道を挫折してしまった若者に扮してダンスシーンまでやりきっている。なかなか知られる機会がなかっただけで、じつに多才な俳優なのだ。しかも今回の『舞いあがれ!』の初登場シーンの前日には大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合)に顔を見せており、「夜も朝も佐々木がいる!」と一部のオーディエンスを驚かせている。今後このようなことは増えてくるだろう。しかもおそらく、視聴者の言葉は「夜も朝も細川岳がいる!」と、演じ手である彼本人に向かっていくはずである。

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