『舞いあがれ!』“鶴田先輩”足立英に聞く、俳優への志 履歴書を書き続け腱鞘炎の過去も
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』で大学生になったヒロインの舞(福原遥)が出会ったのは人力飛行機に熱い情熱を注ぐ「なにわバードマン」のメンバーたち。舞の好奇心を刺激し、“パイロットに挑戦したい”という気持ちを芽生えさせた。そんな彼女に大きな影響を与えているのが、怪我をしてしまった由良(吉谷彩子)や設計担当の刈谷(高杉真宙)、そしてサークル代表の鶴田葵(足立英)ら先輩たちの姿だ。
今回、リアルサウンド映画部では、本作で初の朝ドラ出演を果たした鶴田役の足立英にインタビュー。俳優を目指したきっかけだった朝ドラへの思いや、「なにわバードマン」のメンバーたちの印象、今後目指していく姿を聞いた。
アキちゃんみたいになりたい
――役者を目指したきっかけは?
足立英(以下、足立):高校1年生のときに東日本大震災が起こって、高2、高3とボランティアに行きました。被災者の方々に「来てくれてありがとう」と言ってもらえて「よかったな」と思って帰ってきたんです。でもそのあとにプロ野球チームの東北楽天ゴールデンイーグルスの選手たちが被災地訪問しているのを偶然テレビで目にした時に、子どもたちは選手と本当に楽しげにキャッチボールをして元気になっていたり、お母さんたちは嬉しくて泣いたりしていて。僕は「みんなが元気でよかったな」と思って帰ってきたけど、そうじゃなかったんだ、と。それで、ほんとうに人を元気にさせられる、影響力のある人になりたいと思ったんです。そんな思いを持っているときに、たまたま朝ドラの『あまちゃん』(2013年/NHK総合)を観たら、主人公のアキちゃん(能年玲奈/現・のん)がまさにそんな感じで。地方のアイドルで、それによって町が活性化されていくのを見て、「これだ!」と。アキちゃんみたいになりたいと思ったし、もの作りっていいなと思ったのが役者を目指したきっかけです。
――選択肢がいろいろとある中で、なぜ役者だったのでしょうか?
足立:なぜでしょうね……でも、なんかピンときたんです。大学まで野球をやっていたんですけど、同期にプロになった子がいて、やっぱり才能の違いを感じたんですよね。その中で『あまちゃん』を観たときに、稲妻が走るような感覚があって。ドラマとか映画は昔から好きでたくさん観ていたし、高校のときに学校行事で演劇を観る機会があったりもしたので、そういう積み重ねがあってピンと来たんだと思います。
――役者になる決意をして、どんなことからスタートされたんですか?
足立:まずは事務所に入らなきゃと思って、みんなが知っているような事務所20社くらいに計5通ずつ履歴書を送って、腱鞘炎になったんですよ(笑)。でも、全然通らなかったので、自分で経歴を作るとこからはじめようと思いました。舞台はオーディションが結構オープンになっているので、情報をかき集めて、愛知から毎月5回ぐらい東京に行ってオーディションを受けて、落ちて……200回くらい落ちたと思います。
――そうやって動き出したのは、いつ頃ですか?
足立:大学1年生の頃です。でも僕、大学には野球の特待生で入ったんです。それをお母さんもすごく喜んでいて。野球に対する厳しさは感じながらも、「やるからにはやるぞ」という気持ちで入学したし、お母さんのそんな顔を見ていると、「役者になりたい」とはなかなか言い出せなくて。
――最終的に、お母様にはどのように報告を?
足立:たしか「アナウンサーいいなぁ」とか、「テレビに出るような職業いいな」みたいにジャブを打って(笑)。車の中でサラッと「役者をやる」と言って、「そうなんだ」とそのまま送り出されたと記憶しています。母の顔が、僕には見えていなかっただけかもしれないですけどね。今もすごく応援してくれているし、そうじゃなければ続けられなかったと思います。
――朝ドラ『舞いあがれ!』への出演は、お母様も喜ばれたのでは?
足立:喜んでくれてますね。連絡の数も増えたと思います。
――その後、初めてお芝居をされたのはいつだったのでしょうか?
足立:2017年の『劇団チョコレートケーキ「60ʼsエレジー」』が初舞台です。卒業に必要な単位を取って、大学4年生の夏には東京に出てきて。もう“役者をやるしかない”と決め込んで猪突猛進でやってきたので、やっとスタートラインに立ったぞ、という気持ちでした。
――そこから舞台を中心に着実に経験を重ねて、『舞いあがれ!』出演に繋がったと。今回はオーディションではなく、足立さんの舞台をご覧になっていたプロデューサーから声がかかったと聞きました。
足立:そうなんです。僕が最初に出ていた劇団チョコレートケーキの作家さんと、今回のチーフプロデューサーとチーフ監督が一緒にドラマを作っていたことがあって。偶然ですけど、奇跡が繋がったんだと思います。
――最初にお話を聞いたときは、どんなお気持ちでしたか?
足立:新幹線の中で連絡をもらったから、というのもあると思うんですけど、(声に出さずに頷きながら)「うん」みたいな。人は本当に嬉しいときは、「うわー」とはならないんだと思いました。だんだんと日が経つにつれて、「本当に出るんだぁ」って(笑)。じわじわと実感が湧いてきました。