『エルピス』は現代人の“再生の水”となるか 佐野亜裕美Pが2人のテレビマンに込めた願い

斎藤と村井、2人の男は敵か味方か?

 浅川の対極として描かれていたのが、斎藤だ。多忙な中、岸本の相談を受けるために時間をつくるなど、善良そうに振る舞っているが、ただ有能で高潔な人物というわけではないだろう。体面は大事にするが、自分の得点にならないことにはシビア。男性権力の象徴であり、浅川とは対照的に、清濁併せ呑んできたキャラクターだ。権力の監視装置であるべきマスコミが、政治家に媚びへつらい、言いなりになっているのも皮肉が効いている。

 この腹の底の知れない男が、浅川と岸本の前にどう立ちはだかってくるのか。いちばんの敵は味方の顔をして近づいてくる。それは現実もフィクションも変わらない。

 逆に、最もわかりやすい敵役として描かれている村井は、今後味方になる可能性が高いと見ていいだろう。セクハラ・パワハラ上等の「おじさん」だが、情報バラエティこそが天職だと豪語するその裏側に報道へのプライドと情熱が見え隠れする。彼がこの冤罪事件に関心を抱いたとき、物語が大きく動き出す予感がする。

 10月31日放送の第2話では、担当弁護士の木村卓(六角精児)が加わり、冤罪事件の再調査が本格化する。はたして死刑囚・松本良夫(片岡正二郎)は本当に無実なのか。新たに起こった女子中学生殺人事件との関連は。

 人間の体内の水が1~2カ月でそっくり入れ替わるのならば、このドラマが最終回を迎える頃には今私たちの体内に流れる水もまったく新しいものになっているはず。そのとき、私たちは生まれ直せているのか。『エルピス—希望、あるいは災い—』は、保身と忖度と無関心にどっぷり浸かった現代人の再生の水なのかもしれない。

■放送情報
『エルピスー希望、あるいは災いー』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00~放送
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、三浦貴大、近藤公園、池津祥子、梶原善、片岡正二郎、山路和弘、岡部たかし、六角精児、筒井真理子、鈴木亮平ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁ほか
音楽:大友良英
プロデュース:佐野亜裕美(カンテレ)
制作協力:ギークピクチュアズ、ギークサイト
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/elpis/
公式Twitter:@elpis_ktv

関連記事