“音”で楽しむ映画祭 ライブ音響上映が引き出す『トップガン マーヴェリック』の魅力

 映画は映像と音の芸術だ。優れた作品ほど音にも気を配っている。映画館の音響は映画の表現力を飛躍的に高めてくれるもの。そして、音響が変われば映画の質すら変わる。現在、展開中の「ライブ音響上映」は、映画の新たな魅力を引き出してくれる貴重な機会だ。

 通常上映とどれだけ違いがでるのか、試しに筆者は『トップガン マーヴェリック』を観ることにした。通常上映のほか、IMAXやScreen Xなど上映形態ごとに異なる鑑賞体験を与えてくれると評判の同作だが、ライブ音響上映は、音にこだわりぬいた同作をさらに輝かせてくれるものとなっていた。本稿では、11月3日より新宿ピカデリーで開催される映画祭に先駆け、109シネマズ川崎での『トップガン マーヴェリック』鑑賞体験をレポートしたい。

 ライブ音響上映は、通常の劇場音響だけでなく、ライブ・コンサート用に用いる大規模・高品質な音響設備を、映画祭の開催期間にあわせ、外部から持ち込み、特別に設置して上映するものだ。期間限定で増設する音響設備によって、通常上映ではまるで体感できない、まさにライブ会場さながらの生に近い臨場感溢れる音を浴びるような感覚で作品を楽しむことができる。スクリーンの前には大きなスピーカーが鎮座しており、いつもと異なる劇場の風景が上映前から期待を盛り上げてくれる。

 そして、上映開始とともに「いつもと違う」音が聞こえてくることに驚くだろう。映画の始まりを告げる「Top Gun Anthem」の聞こえ方からして、通常音響とは全く異なり、音の一つ一つの粒が立っていてクリアに聞こえる。「Anthem(アンセム)」とは讃美歌という意味があるが、36年ぶりの続編に対する「祝福感」がライブ音響によって劇的に増している。

 そして、そのまま名曲「Danger Zone」へとつながる冒頭は、ライブ音響の恩恵のデモンストレーションとして最高だ。戦闘機の発進シークエンスとともに流れる同曲は、本作全体を象徴するものと言えるが、その歌詞の意味をライブ音響はさらに際立たせてくれる。

<Revvin' up your engine(エンジンの回転数を上げろ)>
<Listen to her howlin' roar(彼女の咆哮を聞け)>

 同曲はこのフレーズから始まるのだが、ライブ音響は戦闘機のエンジン音を文字通り「咆哮」へと変える。エンジンが点火された瞬間、唸り声のようにビリビリと胸に響いてきて、まるでエンジンの熱で胸が焦げ付いたかのような体感を覚えた。

 このエンジン音の咆哮は冒頭に限らず、映画全編に渡って戦闘機が発進するたびに響き渡る。現場で戦闘機の発進を間近に目撃したら、こんな風に熱風を感じ、耳にその轟音が焼き付くだろう。そんな感覚を映画館にいながらにして味わわせてくれるのだ。

 他にも、マッハ10に挑むマーヴェリックを地上で見つめるケインの上空を戦闘機が飛んでいくシーンでは、ケインが聞いたであろう、音速で大空を切り裂く音を劇場に運んでくる。4D上映ではないから実際に風は吹かないが、音だけで突風の錯覚を与えるほどに臨場感が高い。

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